船に登ると、道を開けるようにクルー達が端に寄って立っていた。名無しはその数に息を飲む。

登って早々見定められるように向けられた何百という視線は、以前履歴書を持ってきたときには感じなかったものだ。


「早くしろよ、親父が待ってる」


前を歩いていたラクヨウが急かすように振り返り、名無しは竦んだ足を叱咤して足を踏み出した。
ギッと板が軋む音で、辺りが一気に静まり返りよくわからない緊張感が甲板に広がる。

大勢のクルー達がラクヨウに連れられている名無しの方を向き、少しずつだがプレッシャーを感じた。そのプレッシャーの元は言わずもがな、看板に鎮座している白ひげ。


酒を飲みながらラクヨウの方を軽く一瞥してから、大きなうつわをゆっくりと下ろした。

機嫌がいいのかわからないが、グラグラと低い笑い声が響いている。


「お、お久しぶりです」


ぺこっと軽く頭を頭を下げてから、視線を上げると白ひげは軽く目を細めて笑った。


「最初の威勢はどこに置いてきやがったんだァ?」


ドプドプと酒をうつわに注ぎ入れた白ひげは軽々とそれを持ち上げて酒を一気に飲み干す。

初めてこうやって対峙した際にはアウェイ感と、馬鹿にされている感じがひしひしと伝わってきていたが、今回は違う。


目の前にいる白ひげから放たれるプレッシャー以外は感じることはなく、周りから野次が飛んでくることもない。
あれだけ敵意を剥き出しにしていたマルコですらただただ沈黙している。


「この間はありがとうございました」


今度は深く頭を下げると、白ひげはグラララと低く笑う。
酔っ払っているからなのか、それとも上機嫌だからなのかはわからない。

静まり返った船の上で大勢の中からサッチを探すと、再度頭を下げる。
一瞬目が合った気がしたが、サッチもその隣にいたラクヨウもは特に反応することなかった。


「堅苦しいやり取りはナシだ、名無し」

「は、はい」


持っていたうつわを大きな薙刀に持ち変えて、石突で甲板を強く鳴らした。
ダンッと力強く響いた音が、足元から伝わって痺れるように頭まで駆け抜ける。

波の音が鮮明に聞こえる中で、目の前に座っていた白ひげがゆっくりと立ち上がって、上から見下ろした。



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