エースに派手にやられた支部は半壊状態で、きちんと直るにはまだまだ時間がかかるという報告があった。
まだ復帰するとも言っていないのに、報告の書類や申請の為の書類、それに支部の工事に関しての書類が当たり前のように名無しのところに流れてきている。
正直な話、今は逃げたい気持ちの方が大きい。
周りから期待されているのをひしひしと感じるし、今この場に留まってしまったら一生この島で生きていかないといけなくなる。
慣性で書類をこなし、淡々と復帰への道を辿っていることはわかっているのに流れに逆らえない。
「まんざらでもねェのか」
少しずつ形を取り戻していく支部を見上げながらぼんやりと立っていると、後ろから声がして軽く振り返る。
「スモーカーさん」
「傷はどうだ」
「だいぶ治りました。歩くことに支障はないぐらいに」
「そりゃあよかったな」
マッチ棒を2本纏めて擦ったスモーカーは、切ったばかりの葉巻を丁寧に回しながら火をつけていく。そして綺麗に火がついたのを確認してからマッチ棒を振って火を消した。
「あの、まんざらじゃないってどういう意味ですか?」
「そのままの意味しかねェだろ。海軍に戻ってくるのが、まんざらでもないのかってことだ」
口に入れたけむりを転がしながら楽しむスモーカーの口からは少しずつけむりが漏れ出す。
呆れたような声のスモーカーに、まさか海賊とのいきさつを話すわけにもいかず、曖昧な返事をするしかなかった。
スモーカーに言えば、間違いなくそんな約束をすること自体がナンセンスだと言われそうだ。もちろんその通りなのだが、それが出来ないのでこの場に立っている。
「難しいだろ」
「なにがですか?」
「道から外れて生きるってのも」
「……」
「これに名前を書いて提出すれば楽に生きられるぞ」
復職を希望する書類が入ったファイルを目の前でチラつかせたスモーカーは、手持ちぶさただった手に落とすように置いた。
スモーカーも縛られた位置にいるような気もするが、縛られていながらもスモーカーの行動には意思を感じる。
自分が違うと思えば命令だって無視する。それが出来るのはスモーカー自身に実力と功績があるからだ。
「そう言えば船を海賊が奪おうとしてたから俺が回収したんだ。明日本部に持って帰らねェとな」
面倒そうに頭を掻いたスモーカーに、名無しは書類を握り締めた。