漸く起き上がれるようになった頃には町はもう修復が始まっていた。
スモーカーからの進言もあったからか、海軍が町を修復する手伝いをしてくれているらしい。窓の外には屋根に登っている海兵の姿が見える。


痛む足に顔を歪めながらサイドテーブルに置かれた海軍本部からの辞令を見つめた。
何故かは知らないが、復職することが前提になっているらしく、今回の防衛が認められて辞めたときよりも階級が上がっている。


自分がやったことではないのに階級が上がっているということにはやはり罪悪感を感じる。
まだ海賊の特定は出来ていないらしいが、もし特定されれば全てが白ひげ海賊団のせいになるのだろう。


ぼんやりと辞令の紙を見つめていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえて、慌てて辞令の紙を引き出しのなかに突っ込んだ。


「名無しちゃん、もう起きても大丈夫なのかい?」

「うん、大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「なに言ってるの。もうちょっと心配させなさい」


お盆には水と薬、そして美味しそうなお粥が乗っていた。
この間まではお粥なんて出てくるような生活環境ではなかったのに、これだけで島にとってはいいことだったんだと感じた。


「おばさん達は全員無事だった?」

「みんな無事よ。これも名無しちゃんのおかげね」

「……うん」


当たり前のように返ってくる言葉には違和感しか感じることがない。助けたのは間違いなく自分ではないという自覚はある。
止めたいと思っていたのに、なにも出来ずにただ立っていただけだった。全て白ひげ海賊団が解決してくれたことだ。


あれだけ大口を叩いておいて、なにもできなかったなんて情けないやら悔しいやらで言葉が続かない。


「……あの」

「ごめんね。名無しちゃん」

「えっ?」

「名無しちゃんを島に縛り付けるようなことして」


籠った空気を逃がすように窓を開けながらそう呟いたおばさんの背中は小さく、後悔しているように見えた。


「海賊の人が言ってたんだよ。こうしたほうが名無しちゃんのためになるって。私たちも名無しちゃんがここにいてくれたらって……でも、」


そこで口を閉ざしたおばさんに、なんて声をかければいいかわからずに、ただただその先を待つしかなかった。



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