島の住民はみんな口を揃えて名無しのおかげで助かったと言った。
海賊が来て暴れまわって町を破壊し、物品を強奪し、それを止めようとした海軍まで壊滅状態にまで追いやった、と。
そこへたまたま島に戻っていた名無しが居合わせて、海賊を追い払ってくれたという出来すぎたストーリーらしい。
支部とはいえ、大佐レベルと部下を壊滅させる海賊を名無し一人で追い払えるかと言えば、それは絶対に不可能なことだ。
「スモーカーさん、本部に報告完了しました」
「ああ」
一部爆破で崩壊された鉱山を眺めていたところに、本部に報告をするために船に戻っていたたしぎが走って戻ってきた。
「ここは火気厳禁ですよスモーカーさん」
「潰れる前は、だろうが」
「一応決まりですから。住民の皆さんに示しがつかないですよ」
「うるせェ」
わたわたと慌てながら葉巻を隠すように身体を左右に揺らすたしぎは、暫く動いてから諦めたように肩を落とした。
「たしぎ……お前、名無しとは仲良かったか?」
「え?名無しさんですか?そうですね、よく話はしてました」
いきなり名無しな名前が出てきたことに驚いたたしぎは、ずれてしまっていた眼鏡の端を指で持ち上げながら頷く。
「あいつの馬鹿さ加減は昔からか」
大量の煙を吐き出しながらそう尋ねると、たしぎは少し困ったように笑いながら持っていた刀を強く握りしめる。
その様子は答えに困っているというよりも、そうだと認めるのが申し訳ないというような反応に見えた。
「馬鹿ではないと思います。ただルールに縛られていてかなり不器用な生き方をしているとは……思います」
気まずそうにそう口を開いたたしぎは眉を下げて眼鏡の縁を撫でた。告げ口したような気持ちになったらしい。
そこまで言ってたしぎはふ、と思い立ったように視線を上げた。
「名無しさんは、海軍に戻ってくるんでしょうか」
独り言のように小さな声でそう呟いたが、聞こえなかったフリをして葉巻を踏み消す。
口から溢れた煙が、空に溶けるように消えていく。
「名無しが支部の大佐とは偉くなったもんだな」
わざとらしい声に、たしぎが後ろで曖昧に頷いていた。