※流血注意




『今のお前なら呼ぶね』


そう言ったサッチの顔が思い浮かんだのは、元々仲間だった海兵相手に刀を振り切った時だった。

なにも考えずにただ感情に任せて刀を抜いてしまったため、もう後戻りが出来い。
幸い鉱山にいた海兵は少なく、一人でも相手ができる程だが、すぐにこの騒ぎを聞き付けて他の海兵がやって来るのは目に見えていた。


大人数に相手に勝負出来るほど自分の腕はないことはわかっているし、自分がしなくてはいけないことから遠ざかっているのもわかっている。

こんなときに限ってサッチの言葉が頭を過る。


「……っ」


政府に訴え出ても意味はないとか、住民が裏切ったら大人しく殺されてやるのかとか。
弱気になっているのかもしれないが、迷いから刀を持つ手が震えている。


くぐもった呻き声と、刀から滴る血。そしてあの日同様に空に厚く黒い雲が立ち込めていた。
湿気た独特の臭いが今から降ってくるであろう雨を知らせる。


「動くな」


引き金を引く音にゆっくり視線を上げると、目の前には散々監視していた大佐の姿があった。


「お前か?この島のことを色々嗅ぎ回ってやつは」


爆発音と騒ぎを聞いても尚、鉱山の中から住民が逃げ出してくることない。住民ならあの爆発音で何が起こったかすぐにわかるはずだ。

不愉快そうに眉を歪める大佐を見ながら、一緒に命を賭けてくれるといっていたおばさんの言葉を思い出した。


「もう止めてください、大佐。こんなことする為に海軍に入った訳じゃないですよね?」

「お前は何者だ」


元海軍本部の人間だと明かすのは簡単なことかもしれないが、それはそれでややこしいことになりそうだったのでやめた。

正面から向かっていっても無駄だということもわかっていたのに、同じものを目指していた仲間がこんなことを正気でするとは思いたくなかったのかもしれない。


「止めてください。こんなことは正義じゃないです」


細い雨粒が落ちてきて、島全体を静かに叩き出し、燃えていた鉱山臭いが雨に打たれて独特の臭いに変わっていく。


「質問に答えろ。お前は何者で、何をするためにこの島に来た?他に仲間はいるのか?」


少し苛立ったように銃を突き付けた大佐は、怯えているようにも見えた。


「大佐の正義ってなんですか?このままじゃこの島は死んでしまいます」


強くなっていく雨の音に掻き消されるように銃声が響いた。

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