もくもくと上がる黒煙と地鳴りが島に緊張感を走らせる。

被害を出さずにこっそり逃げ出すことは楽にできたのだが、それだと住民が見つかる可能性が高い。
そうなると、一度見つかってから逃げるのが一番住民にとって被害が少ないと踏んでいた自分の考えがいかに甘いものであるか思い知らされた。


黒煙が上がったのは名無しが逃げてきた道とは全く違う鉱山の方から上がったのだ。


「……」


その黒煙の意味を理解した瞬間、一気に血の気が引いていく。

この島は鉱山で成り立っている島だ。鉱物を売って生業にしているため、海軍が鉱山に攻撃を仕掛けることはないと思っていた。中で銃器なんて使えば崩れてしまう可能性もある。
そのことを考慮して島の住民と話し合って避難場所に決めた。

海軍と鉢合わせしないように遠回りしながら鉱山の方に走る。
冷静に考えれば、自分をおびき寄せるためにやっているのだということぐらい容易く分かることなのだが、共に命を賭けてくれた人間を見殺しにしてまで政府に訴え出る意味がない気がした。


もし、これが仕事なら信じてくれた仲間のためにという大義名分を胸に前に進めるのかもしれないが、この島に残っている家族は抵抗する力を持たない。
そして、ここで家族が一人でも死んでしまったらきっとまた後悔する。



おばさんに握られた手が、妙に心細く感じて気持ちに足がついていかないのを感じながら茂みを突っ切った。


その先に見えた光景は、嫌な予想を全く裏切らない現実。
正義を掲げる海軍が、もぐらの穴を爆破して塞いでいた。


「……」


心のどこかで海軍はそこまでしないと信じていた部分があったのかもしれない。
正義の見解に違いはあるにしても、無抵抗の一般の市民に手を出したりはしないと。



地鳴りのような爆破音が再び島中に響き渡り、濃い黒煙が上る。


上官命令に従っているだけなのだとわかってはいるが、海兵が淡々と仕事をこなしていく様は、海賊なんかよりもずっと残酷に見えた。


鼻につく嫌な臭いに無意識に眉を歪ませた名無しは、唇を噛み締めながら刀を鞘から抜いた。

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