「おはようございますっ」


朝日も昇らないうちに甲板に顔を出したのは4番隊隊長のサッチだった。
眠そうな目を擦りながら大きく口を開けて欠伸をしたサッチだったが、名無しからの挨拶に少し驚いたのか、目を丸くして船縁から下を覗き込んでくる。


「お前、昨日の……。こんな朝早くからなにやってんの?」


何度でも来ると宣言した通り、もちろん今日も受け取ってもらえないであろう履歴書持参でやってきたのだ。
サッチの驚きの表情からしてこの距離まで見つかっていなかったということだ。攻撃されないようにわざわざ小船できた甲斐があった。

名無しの姿を確認したサッチは面倒そうに頭を掻きながら見張りがいるであろう頭上を睨み付ける。


「見張りの意味ねぇな」


そして一言そう呟いてわざとらしくため息を吐いた。

ため息を吐きながらもロープを垂らしてくれる辺りが流石は世界最強と呼ばれる海賊団だ。
元とはいえ、海兵を隊長の独断で招き入れてしまうのだから、その余裕っぷりが容易に見てとれる。

そしてそんな独断的で自分勝手な行動を許すのは、"家族"だからに違いない。



これがもし本部ならば一発で懲戒免職ものだろう。


「朝早いですね!私もさっき起きたばっかりです」


垂らされたロープを難なく登ると、一服しているサッチに戸惑うことなく話しかける。


4番隊隊長のサッチ。
主にキッチンを預かる。フランクな人間だという情報はよく流れてくるが、戦闘面ではあまり話を聞かない。
勿論戦闘面で劣るということではなく、キッチンを預かる故にあまり外部露出がないのではないかと言われている。


「朝飯の用意があるからな」

「結構真面目なんですね」

「……朝から寒くなるようなこと言うな。突き落とすぞ」


真面目という言葉に嫌悪感を感じるのか、サッチはぎろりと名無しの方を睨んで紫煙をゆっくり吐き出した。


「でもサッチさんが動かないとご飯は出来ないんですよね」

「いい。それ以上言うな」


母親みたいだと言おうとしたらサッチがそれを悟ったのか、素早く言葉を手で制止した。
凶悪な犯罪者だと思われている海賊だが、褒められれば照れたりもするものらしい。サッチのこの行動が照れによるものなのかはわからないが、少なくても家族の為にしていることには苦労という言葉は当てはめないようだ。


「朝御飯作るんですよね?手伝わせて下さい」

「あ?ダメに決まってんだろ。信用出来ねぇヤツはキッチンには絶対入れねぇ」


ダメ元で言ってみたが、やはりあっさりと断られて思わず肩ががっくりと落ちた。
勿論サッチの言っていることは正論なので、これ以上色々いうことも出来ない。


今日は門前払いになりそうな予感だ。


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