代わりに海軍支部を潰してやるから、海軍に戻れ。それがサッチの言い分だった。

勿論それに頷くことは出来る筈もなく、首を横に振った名無しを見て、サッチはやっぱりなと言わんばかりに短く笑うだけだった。


サッチの考えていることはよくわからない。

家族になりたくないから海軍に帰そうとしているようにも見えるが、家族にしたくないというのであれば放っておいた方がいいのは明白。それなのにわざわざこんな辺鄙な島にやって来て海軍を潰してやるから海軍に戻れなんて言うこと自体理解不可能だ。


サッチの言葉の意味を頭の中でぐるぐると考えながらカスカスで中身のないパンを少しちぎって口に運んだ名無しは、薄いスープでそれを流し込む。

あまり食べた気にはなれないが、このカスカスのパンも水みたいなスープも今の島では貴重な食料だ。これだけでも捻り出すのには苦労したのだろうと思う。

食料を少しでも持っていればよかったのだが、生憎船の食料庫はパン一欠片も残っていない。


「名無しちゃん、これも食べな」


ほんの少しの食事を摂り終わった名無しに、隣のおばさんが乾燥したフルーツを少しだけ皿に出した。


「大丈夫だからこれは取っといて」


アルミの安い皿に出されたフルーツの価値はわからなかったが、少なくても希少なものだということだけはわかった。
そんな希少なものを気軽に口にすることも出来ずに、心苦しさから皿ごと返す。


「……名無しちゃん、思い詰めたような顔をしてるけど、くれぐれも無茶だけはしないでおくれ」

「うん」


不安そうに眉を歪めるおばさんに、まさか海賊のことを考えていたとは言い出せずに、後ろめたさから目を伏せて頷く。

こんなにも真剣に真正面から向かってきてくれているのに、気がつけば背中を向けてしまっている。


正義だとか、家族だとか。
そんなものを建前にして、いざとなれば逃げ出して、背中で見た景色に後悔ばかりしている。

島を守ることで、あの日の惨劇を自分の中から消そうとしているのだ。



あの日、仲間を引き止めて自らの手で守ってやればよかった。

海軍が裏切ったわけではない。
逃げてきた仲間を、自らの意思で裏切ったのだ。
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