朝は10時過ぎに部屋に入り、書類整理をする。
11時頃に来客があったり、部下が部屋に出たり入ったりすることもあり、慌ただしく昼が過ぎていく。
2時を過ぎた頃に漸く昼御飯を食べに出る。そして3時前には部屋に戻り、また仕事を始める。
特に金遣いが荒いわけでもなく、極々普通の海軍支部の大佐だ。寧ろ真面目な分類に入るぐらいだ。
志は高そうだし、どこからどう見ても島を食い物にしているようには見えない。
双眼鏡を覗き込んでいた名無しは、ため息を一つ溢してから持っていたノートに視線を落とした。
約2週間程見張り続けた結果、司令官室に誰もいなくなる時間帯は2時過ぎから3時前だということが判明した。
ノートの空白にペンで印を付けて、双眼鏡をポケットの中に押し込む。
つい最近までこんなことをするようになるとは思っても見なかった。
「……」
なんとなく感じる罪悪感をかき消すように頭を強く振ると、部屋で書類整理をしていた筈の大佐が、窓から外を警戒するように睨み付けていた。
見つかったかどうかは定かではないか、少なくともなにか不審な空気を読み取ったのだろう。
息を殺してゆっくりと茂みに身体を隠すと、大佐はキョロキョロと辺りを見渡しながらカーテンを引いた。
大佐が見えなくなったことを確認してから撤収作業を始める。
「なぁ、裏切られる可能性はねぇの?」
暢気な声を出したサッチは、木の影から海軍支部を覗き見るように身体を屈めた。
「……考えてません。そんなこと考えても仕方がないので」
撤収するために辺りを軽く荒らして形跡を消していた名無しは、その手を止めて自分に言い聞かせるように呟く。
「じゃあ住民が裏切ったら大人しく捕まってやんのか」
エースは簡単に引き下がってくれたのだが、それと入れ替わるようにやってきたサッチには名無しの意見は通らなかった。
サッチが自分の意思で島に留まること、それからそれを家族が納得したということ。それを聞いたとき、追い返すのは絶対に無理だと諦めた。
「だから海賊には向いてないって、言いたいんですか?」
何度も何度も言われてきた言葉が脳裏で再生して、いつになくトゲのある言い方になった。
思ってもみなかった自分の言い方にハッとして口を手で押さえるが、言われたサッチ本人は然程気にしていないようで、暢気に煙草に火を点けていた。
「俺が潰してやろうか?あの大佐」
紫煙をゆっくり吐き出しながらそう口にしたサッチは、煙草を持ったまま静かに海軍支部を指差した。