やることがたくさんありすぎて、頭の中がパンクしそうになる。
政府に訴え出るなんて大それたことを、何故やると決めてしまったのか、今でもよくわからない。
ただ、死んで行く島を見ているのが辛くて、悲しくて、なにかをしなければと強く思った。
リスクを説明することなく、町の住民をも巻き込んでしまったことに、罪悪感を感じているのが今現在だ。
固く冷たいベッドに転がったままため息ばかり吐いて、息苦しさを感じて起き上がることを繰り返している。
時間的にはもう深夜。それなのに窓から見える鉱山入口辺りには火が煌々と焚かれ、削り出すような金属音が一晩中響いている。
窓の外を複雑な思いで眺めていると、窓の外に気配がして思わずベッドの脇に立ててあった剣に手を伸ばす。
やっていることがある意味反政府運動に近いことだ。
いつかは勘付かれると思っていたが、あまりにも早すぎる。内部から告発者が出たのではという嫌な考えに、思わず柄を持つ手に力が籠る。
「なんだ、起きてんのか。遠慮して損した」
「……いっ」
聞き覚えのあるそのローテンションな声に、半分以上抜いていた剣を止めると、窓の外からひょいっとサッチが登ってきた。
いとも簡単に登ってくるが、ここは3階であり、強盗防止のため外壁には最低限しか凹凸はないはずだ。
よいしょ程度で登ってこれるとは到底思えない。
「あれ、まじめちゃんって見聞色使えねぇの?」
剣を半分抜いた状態で構えていた名無しに、サッチが呆れたようにポケットから取り出したくしゃくしゃの煙草に火を点けた。
暗闇の中、チリチリと燃える煙草はオレンジ色に光っていて綺麗に見える。
「見聞色は、その……気配と性別程度しか」
剣を鞘に戻しながら目を伏せると、興味なさそうに鼻を鳴らした。
死ぬ気で努力をしてきたつもりだったが、見聞色を完全にマスターは出来ていない。
同期では身に付けたのも一番遅かった。
「武装色は?」
「武装色はある程度、いけます」
「そんなんで大佐に刃向かうつもりか?支部だから弱く見積もっても大尉、お前は本部だが元中尉だろ」
「……」
サッチの言葉に、名無しは口の中に溜まった唾をゆっくりと飲み込んだ。
「理想ばっか追いかけてねぇで現実見ろよ」
辛辣にも聞こえるその言葉に、返せる言葉は何もなかった。
ただ、こんなにも正面から向かってきてくれるサッチに、喜びすら感じてしまった。