ふくろうに似た鳥が低い声で鳴くのを名無しは奥歯を噛み締めながら聞いていた。
こんなに緊張したのは久しぶりかもしれない。
「悪ィ!遅れた!」
ガサガサと木を掻き分けて待ち合わせ場所にやって来たエースは、脱げていたテンガロンハットをかぶり直して笑った。
何をしたのかはわからないが、お腹が妙に膨れているので、なにか食べたのだろうと思う。野生の何かを。
「エース、別行動したいの」
「なんで?別行動はなしだって言っただろ」
少し拗ねたように唇を尖らせたエースは、名無しの顔を覗き込んだ。
「やることができたから、暫くこの島に残ることにしたの」
腰に差していた刀を握り締めた名無しは、細く息を吐き出してからエースの目を見た。
少しつり上がったエースの目を真っ直ぐ見つめると、エースは困ったように髪をがしがしとかきむしって空を仰ぐ。
「あー……なんかあるなら手伝うけど」
ぐしゃぐしゃに髪の毛をかき混ぜたまま固まっていたエースは、思い立ったように名無しの方を見たが、それに名無しは首を横に振った。
「だよな。お前ならそう言うと思った」
「ごめんね」
「いや、別にいいんだけどな。想定内想定内」
「え?」
気まずそうに答える名無しとは違い、エースはわかっていたと言わんばかりに数回頷いて見せた。
エースが絶対に反対してくると思っていた名無しからしてみれば、妙な違和感がある
「想定内ってか、イゾウが言ってた通りになったからなんか変な感じだな」
「イゾウさんが?」
「おう。名無しがついてくるなって言ったら大人しく帰るって話になってんだよ」
ヒラヒラと手を揺らしながらテンガロンハットを引き上げたエースは、白い歯を見せてニヤリと笑った。
エースがあまりにもあっさり引いたことに戸惑いが隠せない名無しは、目を丸くする。
「じゃあ俺は船に帰るけど、あんま無理すんなよ」
目を丸くしていた名無しの頭をポンポンと軽く撫でたエースは、再び木を踏みつけながら来た方角へと戻っていく。
見えなくなった後ろ姿を探すように視線をさ迷わせていたところ、島の隅の方で大きな火柱が上がった。
多分モビーに迎えに来て貰うためにエースが合図を出したのだろうが、目立ちすぎだと思った。