鉱物の独特の匂いがする街は、何年も経った今でも変わってはいなかった。
変な話だが、昔に戻ったような気持ちになる。


「名無しちゃんかい?久しぶりねぇ」

「薬屋のおばさん」

「ああ、懐かしいよ。元気だったかい?」


町並みを見て歩いていると、駆昔隣に住んでいた薬屋のおばさんが駆け寄ってきた。

声で辛うじてわかったが、記憶の中の人物の風貌とは大分違っている。記憶の中の薬屋のおばさんは、もっと恰幅がよくて底抜けに明るい笑顔の女性だったが、今は見る影もないほど痩せて、懐かしむように肩を掴む手も弱々しい。


「海軍になったんだって?小さい頃からの夢が叶ってよかったねぇ」


昔を懐かしむように頷きながら肩を叩くおばさんは、同時に思い出したくないことを思い出したのか、少し眉を歪めながら笑って見せた。


「おじさんと息子さんは?掘りにいってるの?」

「……」


懐かしさのあまり口にした言葉におばさんの顔が暗く沈み、その表情がなにを示すものかを瞬時に悟った。


「中に居すぎたせいで肺が粉塵にやられてね」

「中に居すぎたって……発掘の制限時間は?」

「取り払われたんだよ。粉塵は健康に害はないってのがお偉いさんの判断らしくてね」



粉塵が激しい鉱山内での発掘は、基本的に時間が決められている。マスクはしているのだが、細かすぎてどうしたって吸い込んでしまう。
大昔に粉塵が原因で死亡者が多数出て、時間が決められていたのだ。

それが上の意向で取り払われたなんて正直信じがたい話だが、おばさんの目に浮かんだ涙は嘘を言っているようには思えない。昨晩見たこともあり、最悪な構図が頭に浮かぶ。


働き手の激減した島は、死にかけているという言葉がよく合う。
このままでは搾り取るだけ搾り取られてこの島は住民もろとも死んでしまうだろう。


「おばさん、政府に訴え出よう。このままじゃダメだよ」


悲しみに震えるおばさんの手をギュッと握り締めて、自分に言い聞かせるように呟く。


朽ちていく島を見て見ぬフリは出来ないし、下手に手を出せば海軍から怒りを買うかもしれない。それならばもっと上に助けを求めるしかない。


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