「……」


圧倒されるような空気に少しだけ怖じ気付いたが、目の前に座る世界最強と呼ばれる男を名無しはまじまじと見つめる。
手配書などで見たことはあったが、生で見るのはもちろん初めてのこと。

海賊でありながら、海軍元帥であるセンゴクに一目置かれている相手、エドワード・ニューゲート。通称白ひげ。その身体は年老いてはいるがそれを感じさせることない眼光、そして覇気。少しでも気を弛めれば一気に意識を持っていかれそうになる。


「海軍の小娘が一体なんのようだァ?」


小馬鹿にするような言葉だったが、当たり前の反応なので頭に来ることはない。寧ろ気になるのは白ひげの前にずらりと並ぶ16人いる隊長達の殺気の方だ。


「先日手紙にも書かせてもらった通り、仲間にして欲しくて来ました!」


元海軍の小娘が仲間にしてほしくて、なんて嘘臭いにもほどがあるだろうが、それが事実でしかないのだからそう言うしかない。
目の前で壁のように聳え立つ大きな男達の目が更に鋭く光った。


「どうせ海軍の回し者なんじゃねぇのかい。いきなり海賊の仲間になりたいなんざ気味悪い他ねぇよい」


1番隊の隊長、不死鳥マルコが眉間にシワを寄せて舌打ちをすると、それに同意するように他の隊長達も頷いた。


「これを受け取ってくれたら全てわかって貰えると思います!是非!!」


否定的な意見に同意が集まる前に名無しは懐から一枚の紙を素早く取り出す。
白ひげ以外はなにやら不穏な空気を感じ取ったのか、その一瞬で全員が戦闘体制に入ったのだが、それが紙だとわかった瞬間気が抜けたような顔をして名無しの方を訝しげに見た。


「グラララ、そいつはなんの冗談だ?」


一枚の紙を差し出した名無しに白ひげは目を細めて、あり得ないほど大きな盃を傾けた。
ごくりごくりと酒を飲み干す音が辺りには響くが、それを気にする人間はいない。


「履歴書です!昨日徹夜で書きました!これに私の人生全てが書き込んであるので何かあった際に安心です!」


二つ折りにしてあった履歴書をピンッと伸ばして差し出すと、厳つい顔をしていた4番隊隊長サッチと7番隊隊長ラクヨウが小さく吹き出した。


「必要ねェな、それを持って大人しく帰んな」


二人の笑い声のせいで場が和みかけたその時、それを抑制するように低い声が響く。
白ひげの声に反応した二人の顔からは笑いは消え、もとの厳しい表情に戻る。


「わかりました。また来ます」

「何度来ても一緒だ」

「それでも。認めてもらえるまでは何度でも来ます」


ぎろりと複数の鋭い視線が向けられるが、びっしり書き込んである履歴書と一緒に無理矢理しまい込んだ。



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