モビーが出航することになったことには気がついた。
朝から騒がしく支度をしていたし、街の人達が残念そうに話をしていた。
海賊なのに出航を惜しまれるなんて理由はわかっていても変な話だ。
そんな別れを惜しむ街の人と一緒に名無しはモビーを見送る。
仲間にしてもらうことを諦めたわけではない。
エースが留守番していてくれたのは本当に助かったのだが、その代償として運び入れていた全ての食料が空になっていた。
一瞬見間違いかと思い、もう一度深呼吸してから覗いてみたが、それは紛れもなく現実で。
その後にモビー出航の噂を聞いて暫く放心状態になったのが昨日の夕方のこと。
急いで街中の店と言う店を走り回って頼み込んだが、食料に余裕を持っている店はなかった。
今日はもう既に開き直って見送りに徹底することになった。
もう二度と見つからないと言うわけでもないし、今が今ついていったから仲間にして貰えるわけでもない。
色々なことがありすぎて頭も混乱しているし、一度整理する時間があってもいいと考えたのだ。
ここ数日で色々な情報が頭に入りすぎた。
隙間だらけだったノートに文字をびっしり書き込まれたような気分になっている。
それだけ自分の人生が短絡的だったのだろうと改めて気がつかされたような気分だ。
「いいのか?行かなくて」
「うん、ちょっと考えたいことがあるから」
「へー」
「……」
隣から聞こえた声に反射的に返事をしたが、妙に聞き慣れたその声に暫く考え込むように沈黙してからゆっくりと視線を向ける。
そこには名無しの方を見て感心したように一人頷いていたエースがいた。
「え」
思わず出た言葉にエースは笑いながらも不思議そうに首を傾げる。
「なんでエースがここに?」
「なんでだと思う?」
「わからない……」
質問を質問で返してきたエースに素直に答えると、エースははーっ!とわざとらしい大きなため息を吐く。
それはもうあからさまなため息に名無しは少したじろいで目を反らした。
「減点対象だな減点対象!」
「ご、ごめんなさい」
エースの言いたいことはよくわからなかったが、減点されることにたいしては恐怖心がある。
思わず出た謝罪に、エースは大きく肩を落として人差し指をピッと立てた。
「海賊は常に自由であれ!ってな!」
説明するように口を開いたエースだったが、名無しには相変わらず意味がわからなかった。