サッチの言った通り、船には暇そうなエースがぼんやりと座り込んでいた。
余程暇だったのか、視界に名無しを見つけた瞬間に立ち上がってにかっと笑いながらぶんぶんと手を振る。
「名無し!もういいのか?」
「うん!もう大丈夫です」
傷があったところを触って見せると、エースはテンガロンハットを押し上げてまた笑う。
手のつけようのないぐらい凶悪な海賊だという話だったが、気を許すととんでもなく甘いらしい。
以前会ったときも人懐っこい感じはあったが、まさかこんなに笑顔で迎えられるとは思いもしなかった。
「船、守ってくれてありがとう!もう修理する余裕がなかったから助かりました」
深々と頭を下げると、久しぶりに立ち上がったせいなのか少し血が下がってしまったような気がした。
「いいっていいって!礼ならマルコに言えよ。俺はマルコに頼まれただけだしな」
「マルコさんが?」
「マルコもサッチもなんだかんだいいながら面倒見いいからなー」
うんうん、と頷きながら頭の後ろで手を組んだエースからは二人のことを誇らしく思っているのがひしひしと伝わってくる。
サッチもだったが、家族のことをこんなにも誇らしげに語れる人間が海賊だなんて少し前までは考えられなかった。
「今度会ったらお礼を言います。でもエースもありがとう」
「……おう」
観察するように名無しの事を見てから顎をあげるように頷いたエースの表情は、サッチやマルコがよく見せる顔だ。
そして名無しが海賊が見る表情だ。
思考が読めないのはお互い様。
エースも名無しの何かがわからずに微妙そうな顔をしているのだろうと思う。
この微妙な違和感が馴染めない一つの要因になっているのだということに、名無しは何となく気がついてきている。
だからといってその違和感を簡単に払拭することができないこともわかっている。
水だったものが油になろうとするなんて到底無理な話だ。
「なんかマルコとサッチが名無しのこと反対する意味がわかった気がする。お前、馬鹿なんだな」
しみじみとそう呟いたエースからは悪意は感じられず、寧ろ感心するような変な呟きに名無しは何を言うわけでもなく黙って頷いた。