「もう大丈夫そうだな」

「本当ですか?よかったです」


後頭部の傷口を見たサッチが軽く頷くのがわかって、名無しは安堵のため息を吐いた。
急に起き上がったりするとまだ痛みはあるが、普通に生活する分には支障はない。

船も心配だったため、早く帰りたかったのだが怪我が治るまでは返さないとサッチが言い張るので3日も宿で過ごすことになった。


サッチ曰く、ラクヨウを守ったせいで怪我をしたのだから、そのまま帰したら白ひげの名が泣くとか。
もちろん無理矢理船に帰ってもよかったのだが、メンツを潰してしまうことになるので仕方なく宿に泊まっていた。


「船が無事でありますように」


名無しの船にはモビーと違って見張りなんて大層なものは存在しない。
船が頻繁に出入りする港では海賊や海賊狩りなどに荒らされやすい。だれも乗っていない小さな船はモビーに隠れて絶好の荒らしスポットだろう。

船の姿を想像しただけでゾッとする。


「あー…船は、大丈夫だろ。うん」

「サッチさん、他人事だからってあまりにもあっさりしてますよ」

「いやいや、ちゃんと根拠があって言ってるっての」


ははは、と笑いながら煙草に火を点けたサッチだが、その乾いた笑いこそ不安を煽るということに気がつかないのだろう。

もちろん信じたい気持ちはあるが、世の中は世知辛い。
そうポジティブに考えられるほど夢見がちな性格はしていないと思う。


「大丈夫だって、マジで」

「そうだと嬉しいです……」

「まぁ、手は出したくてもそう簡単に喧嘩売れないだろ」

「私にですか?」

「エースに」

「え?」

「エースに」


サッチの言葉に目を見開いて聞き直した名無しにエースの名前を2度繰り返した。
目の前で2度も繰り返された名前だったが、名無しの脳内では話が全く繋がらずに次の言葉が出てこない。


「まじめちゃんの船にはエースが乗ってんだよ、見張りとして」


エースなら有名だし、と続けたサッチはわざとインパクトのあるエースを見張りとして立てたらしい。
確かに火拳のエースを見れば喧嘩を売ろうなんてそうそうないだろう。

それにしてもそれが本当ならあんな貧弱な船には贅沢すぎる見張りだ。



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