「あのっ、いいんですか?」


思い立ったように勢いよく口を開いた名無しに、サッチはダルそうに顔をあげて首を傾げた。
勢いよく顔を上げたせいでくわえていた煙草からくっついていた燃え殻がぽろりと折れるように落ちる。それを視線で追いかけて手で落ちた灰を払ったサッチは改めて名無しの方を見た。

なにが、と言わんばかりのその表情に、名無しは頭に巻かれた包帯に触れてから口を開いた。


「こんなによくして貰って…、返せるものがないって言うか……」

「んあー……別にいいって。最初から何かしてもらおうなんて思ってねぇし」


がりがりと後頭部をかきむしったサッチは煙草をくわえたまま器用に紫煙を吐き出す。


なにも期待していないと言うサッチだが、名無しの知っている海賊というのは自分に利益がないと動かない印象が強い。

そんな海賊が手当てをしてくれた上に料理までご馳走になり、こうやって話相手にもなってくれている。
しかも見返りはいらないといわれたら、悪いとは思うが疑ってしまう。


「お前、疑ってるだろ」


相当顔に出ていたのか、サッチが呆れたような顔で名無しを指差した。
サッチの指はじりじりと近づいてきて、名無しの額を強く小突く。


「海賊って強欲な人たちの集まりだと思ってました。世の中の海賊の皆さんすみません」

「いやいや、強欲ってのはあってるだろ。他の海賊は知らねぇけど、うちの家族は強欲ばっかりだぞ」


煙草の根本ギリギリまで吸い込んだサッチは、紫煙を肺から絞り出すように吐き出しながら乾いた笑いを溢す。
家族の事を思い出しているのか、サッチの表情はいつもよりも柔らかいような気がする。


他の海賊団もそうだが、有名な海賊団になると殆どが仲間を大切にしているところが多い。
白ひげ海賊団はそんな海賊団の中でも飛び抜けている。

仲間を家族と言うところや、報復のことからしてもそれは強く窺える。


名無しも仲間のことを大事にしていたが、こんなにも滲み出るほど大事にしていたかどうかは微妙だ。


「あのさー…、尊敬するような目で見るの止めろよ」

「尊敬してます。素敵ですよ、家族の為にそんな顔出来るって」


心の底から思ったことを口にしたのだが、サッチは苦虫を噛み潰したような顔をして項垂れた。




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