例えば、世の中に正義よりも純粋で強いものがあるとしたら、それを知りたいと思うことはなんらおかしくはないはずだ。
名無しは少なくても今まで生きてきた中で正義が一番純粋で強靭なものだと思っていた。

それが目の前で否定された時、名無しの中で何かが弾けて吹っ切れた。


「本気で言ってんのか」


上司であるスモーカーが苦虫を噛み潰したような顔をして、名無しの方を軽く睨み付けた。
口元にくわえられている葉巻からはモクモクと紫煙が上がっており、見ているだけで目に染みる。


「本気ですよ!だって世の中に正義よりも純粋で強いものがあるなんて凄く気になるじゃないですか」


キラキラと目を輝かせて海を眺める名無しに、スモーカーは呆れたように紫煙を吐き出して、くしゃりと前髪をかきあげた。


「お前にゃ向いてねぇと思うけどな。しかも一回踏み込んだら易々とは帰ってこれねぇ世界だ」

「自分で決めたことですから後悔はしません!一生懸命悪事を頑張りたいと思います!」

「俺の前でそんな宣言するんじゃねぇよ」


ぎゅっと拳を握り締めて意気込む名無しにはスモーカーの警告も耳に入らない。
今までは上司であるスモーカーの言葉を聞き逃すことなんてなかったが、今はもうその関係に元が付く。

元上司の言葉よりも、今この時から始まる新しいことにウキウキしてしまっている。
こんなことは入隊の時以来の事だ。


「じゃあ私もう行きます!お元気でスモーカーさん!」

「つぎに会うことがあったら覚悟しとけ。俺は知り合いだからって見逃してやるほど優しくはねぇぞ」


名無しが差し出した手を一瞥したスモーカーはそれに応じることなく短く鼻を鳴らした。



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テーマ「人外ファンタジー」
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