ラクヨウは能天気な性格をしている。楽天家というか、今日がよければ明日は知らんといったような実に明朗な性格だ。
そのせいか、飲みに行った帰りはいつも財布や装飾具を無くしてくる。
本人は全く気にしていないのだが、その度にマルコに金を無心するためマルコには毎回怒られている。
そんなラクヨウが何も無くさずに無事に帰ってきたのだからモビーの中は騒然となった。
自隊のクルーにも熱があるんじゃないかと心配されていたぐらいだ。相当珍しいことだったのだ。
あまりにも不気味だったのでマルコがラクヨウに事情を聞いたところ、以前履歴書を持って乗り込んできた変な女、名無しが酔い潰れて寝ていたところを守ってくれたと笑いながら言った。
ラクヨウ自体隊長になるぐらいだから弱くはない。
ただあまり自分に執着がない。だから何度財布をスられようが装飾具を盗まれようが笑っておしまいだ。
気の短い自分からしたら到底理解できない。相手が女ならまだギリギリ理解は出来るかもしれないが、それでも多少やり返さないと気がすまないと思う。
「あーれー?」
「なんだよい。気持ち悪い声出して」
今朝のことを考えながらぶらぶらと街を歩いていたら、酒場に入っていく男の腰に見覚えのあるレイピアを見た。
「いや、真面目ちゃんのレイピアだよなぁって思ってさ」
「あァ?」
酒場に入っていく男を指差すと、マルコには確認出来なかったのか訝しげな顔をしながら首を傾げた。
「いくら女だからってあんな雑魚には負けねぇだろい」
興味無さそうにため息混じりで呟いたマルコだったが、サッチの頭をラクヨウの言葉がちらちらと横切る。
確かに名無しはそんなに弱くはないはずだが、間違いなくあの男が持っていたのはレイピアだった。
「ラクヨウが助けられてるからなー、どうせ暇だからちょっと優しく事情を聞いて来るわ」
「優しく聞くために指の骨を鳴らす必要があんのかい」
ボキボキと無意識に骨を鳴らしていたらしく、マルコが肩を竦めて馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに苦笑した。
「ばっか、男同士で優しくって言ったらそういうことだろ」
白ひげ海賊団の縄張りで、しかも滞在中に手癖の悪いやつを見るのは気分がよくない。
「暇ってのは短気をその気にさせるからいけねぇよい」
「同意」
全く、と呆れたようにため息を吐いたマルコは盛大に指の骨を鳴らした。