「あー…よく寝た」
ラクヨウの開口一番の言葉は暢気そうなその一言だった。
「おはようございます」
「あ?ああ、おはよーさん」
綺麗に編み込まれたドレッドの頭を器用に掻いたラクヨウはキョロキョロと辺りを見渡しながら名無しの顔を見上げて首を傾げた。
こいつ誰だと言わんばかりの顔はなんとも分かりやすい。
昨晩べろべろに酔っぱらっていたラクヨウを追い剥ぎから守ったまではよかったのだが、何度起こしても起きることはなく、置いていくわけにもいかずに仕方なくずっと見張っていたのだ。
この調子ならラクヨウは飲む度に財布やら装飾品やらを盗まれているのだろう。
「頭痛ぇ…」
大きな欠伸を惜し気もなく披露したラクヨウは、身体についた砂を軽く払いながら立ち上がった。
「お前、あれだな……あの、サッチが言ってたマジメちゃんだろ。履歴書の」
「あ、はい。履歴書の」
怪我は無さそうなラクヨウを見てホッとしていた名無しにラクヨウはぽんぽんと頭を撫でた。
「お前みたいなやつは海軍の方が合ってるだろ。海賊なんかになんなくてもよ」
まだ酒が残っているのか、ラクヨウが口を開いた途端辺りにアルコールの匂いが広がる。
「そうですね、私もそう思います」
ラクヨウの言葉に戸惑いなく頷いた名無しは、自嘲するように笑った。
「ところでラクヨウさん」
「おう」
切り替えるように顔を上げた名無しは進言するかのように姿勢を整えた。
ビシッと強張るように背筋を伸ばした名無しを見てラクヨウも釣られたのか同じように背筋を伸ばした。
「出過ぎたことを言いますが意識が無くなるほどお酒を飲むのはよくないと思います。財布がいくつあっても足りないですよ」
「おー…」
確かめるように自分の身体をぱしぱしと軽く叩いたラクヨウは、ポケットに入っている財布に驚いたように目を丸くした。
財布があることが不思議だと言わんばかりの顔を見ると、やはり毎回無くなっているのだろうと思う。
「お前、なんていいヤツなんだっ!!」
ジーンと感じ入るように目を潤ませたラクヨウは名無しの肩を両手で強く掴み、軽く鼻を啜った。
「これでマルコに怒られなくても済む!本当にありがとうな!」
ラクヨウの立場の低さに少しだけ同情した。