酒の席は無礼講だとかよく言うが、今回ばかりはそうはいかないようだ。
たまたま入った酒場で鉢合わせたイゾウとハルタに隣を陣取られてしまい、個別で面接でもされているような気分になる。
ハルタもイゾウも話し方は穏やかだし、サッチやマルコとは違いよく笑ってくれるのだが、底が見えないと言うか上部だけな気がしてならない。
良い顔ばかりしている人間がどれだけ恐ろしいか、それは既に体験済みなので無意識に警戒してしまう。
だが、二人はそれすらもわかっている感じがする。
「親父は基本的に断らないんだけどね。人はみんな海の子だって言ってさー!エースの時もまさか家族に引き入れるとは思わなかったもんね」
そう語るハルタは、呆れたような口調の割には自慢気な顔をしている。敢えて例えるなら世話の焼ける彼女をのろけているような感じだ。
「面と向かってオヤジにあれだけ堂々と付きまとい宣言したのは評価してる」
酒を口に運びながら口の端を少しだけ釣り上げたイゾウは、伏せていた目をちらりと名無しの方に向ける。
「ありがとうございます」
色気からなのか、嫌な予感からなのか、イゾウの視線にぞくりと背筋が震えて、ただでさえ酔えない雰囲気の中で完全に素面に戻ってしまった。
色々と回りから言われるのは、それだけ自分の存在を認めてもらっているのだと思え、と尊敬していた上司に言われた。
「なんで親父は断ったんだと思う?」
「私が思うに、海軍だったことと、素性が知れないからじゃないでしょうか」
「素性ならお前が持ってきた履歴書で十分だろ。そもそも親父は素性なんて気にするようなタイプじゃねェ」
いつの間にか火を入れていた煙管に口を付けたイゾウは、紫煙を転がすように口の中で遊ばせる。
「親父は真面目ちゃんの性格で海賊にはなれないって判断したんだよね、多分」
真面目ちゃんは真面目そうだし、とハルタがため息を吐きながら強そうな酒を呷った。
「要は正義の為に人を罰してた人間が、自分の欲望の為に人を殺せるのかって話」
「……」
ハルタが軽く発した言葉は、名無しの胸にずしりとのし掛かった。
ハルタが言っていることを覚悟していなかったわけではないが、いざ目の前に突き付けられると上手く返事が出来ない。
「海の上で戸惑ってたら死ぬよ、真面目ちゃん」
返事が出来ないまま黙り込んだ名無しに、ハルタが軽く肩を叩いた。
お前には無理だ、そう言われている気がした。