とあるバーでレイリーは濡れた身体を拭きながら言った。
「久しぶりに名無しから連絡が来てね」
それを聞いた女店主は、くわえていた煙草を華奢な灰皿に押し付けて、紫煙を細く吐き出しながら笑った。
「名無しちゃんから?それは珍しいことね。元気にしてるのかしら。海軍に入隊したって話は聞いたけど」
「まあ、名無しのことだ。特に場所で苦労することもないだろう」
長い白髪から水気を搾り取ったレイリーは、上着に軽く腕を通してカウンターの席に腰を下ろした。
稼ぎ時だと言うのに店に客はおらず、どこか寂しげな音楽がゆったりとかかっているだけ。
窓の外からはレイリーの髪の毛同様財布の中身をきつく搾り取られたであろう海賊達の啜り泣くような声が聞こえてくる。
「でもよりによって海軍だなんて。ご両親のことがバレたら居づらくなるんじゃない?」
新しい煙草に火を点けながら酒瓶の蓋を開けたを店主は、豪快に酒を背の低いグラスに注いでレイリーの前に置いた。
それを見たレイリーは、少し考えたような声を漏らしてたっぷりと蓄えた髭を撫でた。
「青雉くんにスカウトされたと言っていたが……、彼のことだ。おそらく意図的だろうね」
「あらレイさんったら今の海軍大将とも知り合いなの?」
さすがね、と含んだように笑った店主に、レイリーは少し笑みを浮かべたまま酒に口を付けた。傾けられたせいでグラスに入った大きな氷がからん、と涼しげな音を立てる。
「元帥の後釜候補だそうだからね。それはもう私なんかよりずっと頭がキレるさ」
「レイさんが言うと全然本心に聞こえないわよ」
レイリーのとぼけた表情に、店主は目を伏せながら軽く笑って見せた。
口元にある細いタバコからは細い紫煙の線が上がる。
「そんなことよりシャッキー、玉鋼の準備を頼めるか?」
「ええ、レイさんの頼みなら断らないわ。その代わり弾んで頂戴ね」
「おいおい、私からも巻き上げるつもりとは恐れ入ったね」
ふふ、と小さく肩を揺らした店主は酒の少なくなったグラスに追加で酒を注ぐ。
ガラスの棒で底に残った酒と混ぜるとカラカラと氷が音を立てた。
「さて、新たなブラックスミスの誕生に乾杯しようじゃないか」
「レイさんの奢りなら喜んで」
ブラックスミス
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