軍艦で海域の見回りに出たのはよかったが、天気は生憎の雨。
と、言っても土砂降りではなく霧雨のような細かい雨が風に舞っている感じだ。
これはあくまでも主観だが、こんな天気が一番嫌だ。目や口に容赦なく雨が入ってくるし、視界も悪くなる上に気持ちの悪い濡れかたをする。
大雨ならまだ諦めもつくが、なにもかもが中途半端で嫌になる。降るならちゃんと降れよ、と言いたくなる天気だ。
「異常ないか?」
「異常なし」
クザンの下についたと言っても、クザン専用の雑用係だけをやっていればいいというわけではなく、三等兵らしい仕事もきっちり回ってくる。
電伝虫から聞こえてきた声に反射的に反応してから思い出したように海を見渡す。
見渡すことにも限界のある天気ではあるが、船内でぼーっとしてるよりはマシなのかもしれない。
今回の航海はよりによって堅苦しい上官ばかりで楽しみなんて特になさそうだ。
言うなればモモンガがいっぱいいる感じだ。
それに比べたら霧雨に打たれながらでも外の空気を吸っていた方が気分が楽になれる。
気持ち程度に来ていたカッパを脱いで荒れ気味の海に視線をやる。
白い波があちらこちらで立ってはいるが、海賊船らしきものや不審な船は見つけることは出来ない。
「変なものは見つけたけどね」
一瞬視界に変なものが入り込んできたのがわかって思わず顔を背けた。
グランドラインと言うのは不思議な海で、とにかく航海士泣かせの海だ。女心だって敵わないぐらいころころと移り変わる不思議な海。
それを泳いでいるやつなんて、一人しか知らない。
シルバーズ・レイリー。
冥王とか生きる伝説とか海賊王の右腕だとか色々な呼ばれかたをしているが、名無しからしてみればただの元気がよすぎるじいさんでしかない。
センゴクやガープなどと同じ世代だと言うが、大海賊時代を築いた人間はあまりにパワフルだ。未だ現役世代に席を譲ろうとしないのがいい例だ。
勿論経験や知識で言えば優秀な人材なのだろうが、それでもパワフル過ぎることにかわりはない。
「なんで泳いでんの?頭おかしいの?バカなの?死にたいの?」
難なく荒れた海を泳いでいくレイリーは、勿論軍艦がいることぐらい気がついているのだろう。本人に直接聞けばとぼけるのだろうが、レイリーはそういう人間だ。そして上官達はまさか人間が泳いでいるとは思わずに何事もなく過ごすのだろう。
理解不能領域
「異常ないか?」
「異常……ない、です」
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