今日の本部の中は異常なぐらい静かだ。
センゴクはどこかに出掛けたらしく留守にしており、サカズキとボルサリーノも遠征に行ってしまったらしい。
朝の朝礼でそんなようなことを言っていたせいか、クザンもこれはチャンスだと言わんばかりに青チャリでお散歩に行った。
クザンに留守中の本部を頼むと言い残したかったらしいが、出かけるなんてことを言ったらクザンも逃げ出すのは付き合いの浅い名無しにもわかる。
そんなこともわからないなんて海軍本部の上層部の人間は間違いなくアホだ。
廊下に出ると、辺りは不気味なほどに静まり返っていて、うずうずと身体の芯が疼く。
部下もぞろぞろ連れて出ていたのを目撃したので、いつもの半分も本部には人がいないようだ。
「こんな静かな時にはこちら……!青チャリ君2号!暇なあなたの快適ライフを応援します!」
クザンの部屋を家捜ししていたら見つけたら青チャリの予備のサドルをバシバシと叩いた名無しは誰もいないことを再度確認してから青チャリに跨がった。
「操作は実に簡単!股がってペダルを漕ぐだけ!漕ぎ始めてしまえばもう誰もあなたを止められない!」
誰もいない廊下をすいーッと自転車で走るのは背徳感も手伝ってやたら気持ちがいい。
調子に乗ってベルなんて鳴らしてみたりしてみるが、誰もいないらしく響くだけだ。
「イイィヤッホゥゥゥゥ!」
やりたい放題な空気に勢い付いてペダルを思いきり漕ぐ。
ぐんぐんと勢いをつけて階段を下ろうとドリフトをしたら、何故か目の前にいないはずのセンゴクが立っていた。
書類を見ていて気配に気がつかなかったのか、一瞬目を丸くして口をぽかりと開けた。
「……」
「……き、」
「うわあああ!!」
怒鳴り声を上げそうになっているセンゴクの表情をいち早く読み取った名無しはそれをかき消すように大きな奇声を上げた。
何故かはよくわからない。
怒られると思ったのもあるし、なんとなくセンゴクの顔を見たらムカついたと言うのもある。
そんな複雑な心境の中、気が付いたらペダルを再び漕いでいた。
「良い子は絶対に真似しないでね!!」
元帥ひき逃げ事件
「名無しっ!!待たんか!」
「聞こえませーんっ!」
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