麗しのヒナ嬢とやらの話をクザンにしてみたら、「美人だもんね、彼女」とクザンのくせに割りとまともな反応をした。意味がわからない。クザンのくせに。
「くせにって言わないでよ。しかも二回も」
「なんかもう凄い腹立つ。私の鼻からうどんが出た時の話は食い付いて来なかったくせに!!私のあの渾身の捨て身ネタをスルーしたくせに!」
「あれはスルーするのが優しさだと思ったんだけど」
「なにが優しさだ!あのあと私が感じた絶望感は世界をも滅ぼすぞ!」
今回だってスルーされることを前提にした話だったと言うのに、女に対しての話題にだけ露骨だ。
「言っとくけど私も女だからな!?」
「別に女だから反応したわけじゃあないんだけどね。よく噂に聞くから」
「私も巷じゃズッキーに逆らうメスゴリラとして有名になってきてるんだから!」
バシバシと持っていた書類を机に打ち付けて主張してみたが、その主張が張り合えてないことに気がついてなんだか嫌になった。もちろんそんなこと自分からは絶対に言わないが。
「名無しちゃんの噂ってあんまり聞いたことないけど名無しちゃんの知ってる巷と俺の知ってる巷は、もしかして違うんじゃねぇの」
「大将のお耳に入れるようなことじゃないですからね」
クザンは張り合えていないことなんて気にしていないらしい。そんな繊細なことを求めてはいないから別にいいのだが、普通なら一番に張り合えもしないところを突っ込むだろう。
それどころか疑問に思うところもずれている。
どこの世界に大将にそんなくだらない噂を耳打ちするやつがいるのだろうか。
しかも大将の側で仕事をしているゴリラの話なんて恐縮すぎて普通は出来ない。
「ま、クザンも男ってことだよね。不能かと思ったけどあたしゃ安心したよ」
机の中を整理していた名無しは引き出しの中に見たことのある手配書をつまんでひらひらと揺らした。
「……」
悪魔の子、と書かれた手配書には目が眩むような賞金額が載せられており、中央には美女の写真が印刷されている。その美女の名前はニコ・ロビン。
まあいろいろと言われている訳有りの美女だ。詳しくはあまり覚えていない。
手配書を覗き込んでいた名無しはちらりとクザンの方を見るが、本人は別に気にした様子もなく相変わらずうつらうつらしている。
ファンなのかとからかってやろうと思ったが、なんとなくそんな雰囲気には見えなかったので止めた。
美女と雉
「ところでテメェはいつまでダラダラしてんだ」
「なんかもう今日はやる気出なくてさ」
「それいつもじゃん……」
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