寝耳に水



センゴクに散々絞られて、元帥の部屋から出たのはもう夕方だった。怒鳴り声を聞きすぎて頭がガンガンする。



「名無しさん、もう帰りですか?」


もうすぐ勤務時間自体が終わりだし、だらだらしながら歩いていれば仕事をしなくてもいいだろうと適当に考えていたら、いきなり声をかけられてびっくりした。


「眼鏡ちゃん」

「たしぎです。言っておきますが私の方が上ですよ」

「マジか!」

「寧ろ何故知らなかったのかが不思議なぐらいです」

「実は知ってたけどね」

「なら口の聞き方には気を付けてください。部下達に示しがつきませんから」


ツン、と澄ましたような顔でそっぽを向いたたしぎだが、部下からは影でたしぎちゃんと呼ばれている。
それもそのはず、たしぎの部下なんてたしぎよりも年上がごろごろいる。うだつの上がらない不真面目な海兵達に真面目なたしぎは愛玩動物のように見られているのだろう。

そういった態度は易々と誤魔化せるものではなく、たしぎも薄々気がついている。だからこそこうやって体裁を気にする言い方をするのだと思う。

しかもたしぎの場合は自分の体裁と言うよりはスモーカーの体裁を気にしているからまたいじらしい。多分だが、女を部下にしているスモーカー、と馬鹿にされるのを怖がっているのだ。
実際はたしぎの腕を知っているからか、そんな馬鹿にするように見ているやつは殆どいない。たしぎは抜けてはいるが、腕はかなり立つ。人徳もある。

だからと言ったらなんだが、ちょっとからかうぐらいは許されてもいいと思う。みんなそんな感覚でおちょくっているのだ。多分。



「完璧に理解した。そんなことより眼鏡ちゃんはなんか用?」

「理解してないじゃないですか!」

「ドンマイドンマイ!あんまり怒ると眼鏡ずれちゃうよ!」

「全く名無しさんはいつもそうやって……」


ばしばしと肩を叩きながら笑うと、たしぎは困ったように眼鏡の端をを中指で押し上げてため息を吐く。馴れ馴れしく叩いた手は払い落とされて、地味にショックだった。


「白骸のことを聞きに来たんです……。青雉大将が目処が立ったと仰っていたので気になってしまって」


先ほどとはうって変わってうつ向き加減でもじもじと呟いたたしぎは、恋する乙女のようにも見える。が、聞き捨てならないことを言ったのは確かだ。


「えっ?誰がって?」

「大将が仰ってました」









寝耳に水



「うん、うん……とりあえず、ちょっと待とうか」

「白骸はもともと私の」

「あーあーあー!!聞こえないぞー!」



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