結局あの島に行ったのは暇だったクザンが人の過去をほじくりかえす為だったらしい。
「あらら、違うよ名無しちゃん。そもそも名無しちゃんが一緒に行くかどうかすらわかんなかったじゃあねぇの」
「じゃあカクと隠れて逢い引きする為か」
「その妄想は今すぐ止めなさいよ」
帰りの自転車に揺られながら軽く目を閉じていた名無しは、どうでもよさそうに鼻を鳴らした。
別に妄想していたわけじゃないし、好きでそんなことを口走ったわけじゃない。
ただ、どこまでも人の事を知っているクザンになんとなく腹がたって嫌がらせの意味も込めて言ってみた。
刀鍛冶のことや両親のこと、それから仕入先のこと。
自分から周りに話したことなんて一度もないのに、商売相手だったカクから仕入れたにしてもあまりにも不自然で不気味だ。
一平民を調べたところでなんの価値もない。
「そりゃあ、アンタに興味があったからに決まってるでしょうが。名無しちゃんだって興味ないヤツの話なんて聞きたくはないでしょ」
「私は観賞用じゃないですけど!つか人の独り言に入ってこないで貰えますか!?」
「あららら、だって名無しちゃんの独り言って独り言に聞こえねぇのよ」
呆れたような返事と一緒にちりりんとベルの音が海の上に響く。
ペキペキと海が凍る音がして、長閑な海にしては非日常な感じがする。
「クザンって変わり者だって言われない?高確率で」
「まぁ海軍の中では言われたりするけど高確率ってわけじゃあないよ。名無しちゃんはよく言われるんじゃないの」
「私はよく可愛いねって言われるよ」
「嘘だけど?」
「うん、嘘だけど。言われたことなんてねぇよ!」
先読みされていたのかクザンの言葉は予想外だったが、どうでもよさそうな返事をされるよりはマシだ。
「オジサンは名無しちゃんぐらい無駄に元気なぐらいが可愛いと思うよ」
「……」
馬鹿なことを口にしたクザンに思わず眉間にシワを寄せて後ろからクザンの顔を覗き込んだ。
「…何?」
「いや、どんな顔してそんなこと言ってんのかと思って」
不思議に思って覗き込んだが、クザンはいつもと変わらないやる気のない顔をしていた。
どんな神経をしているのか理解できない。
嘯く雉
「どんな顔して言ってた?」
「間抜け面」
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