いい刀の材料に必要なのはいい玉鋼。
本来鍛冶職人は玉鋼を自分で精製するのだが、名無しはそこまで技術はない。母親なら難なく精製してしまうのだろうが、名無しにそこまでの技術は生憎備わっていない。
「玉鋼仕入れにいかないといけないし刀自体を作り直す時間もいるから休みをくれ。休んでも給料が出る感じの休みを!」
「あららら、オジサンに言ってるの?」
名無しの場合は玉鋼ごと仕入れに行かないといけないので連休が必須になる。そうなるとお偉いさんの力というものが必要になる。
名無しの目の前にいるのは海軍の大将だ。こんなに都合のいいことがあるだろうか。
「クザン、前々から思ってたけどクールで格好いいよね!あとなんか寒々しいし!顔とか言葉とか態度とか髪の毛とか!」
「名無し、後者は誉めとらんぞ」
「そう?気のせいだよ気のせい!私の口から出る言葉は全てが誉め言葉だよ!マジ私天使!」
親指を勢いよく立てた名無しにクザンは呆れたような顔をしてため息を吐く。
別にクザンに恨みはないが、もう少し元気を出した方がいいといいと思う。歳が歳なのは仕方がないが、ボルサリーノやサカズキの方がまだ元気がある。
やる気の無さ故なのかは知らないが、根本的にクザンとは合わない。
こんなに押しても引いても反応になんの変化も見られない人間は逆に初めて見た。
「興味本位なんだけど仕入先って誰なのか聞いてもいい?」
「なんだお前興味だけで私を殺す気か?悪魔か?鬼畜か?腐れ外道か?」
含みを持たせるような言い方をするクザンのことだ。確信まではいかないが、そこそこ検討がついているのだろう。ここ数ヵ月で学んだ。
「名無しは仕入先には必ずシャボンディ諸島を訪れるからのう」
しみじみと呟くカクはきっと個人情報の大切さとかプライバシーなんて言葉は知らないんだろう。ある意味駄々漏れ過ぎて潔くも感じてしまうぐらいだ。
自分でも覚えていないようなことでも覚えていてくれそうだ。
「カクが私のことが好きで好きで仕方ないのはよくわかった」
「それはない」
「あまりの即答に全私が戦慄した」
マジ私天使!
「おいおい!自称グランドラインのアイドルになんて言い種だ!」
「自称ってのが慎ましいと思うよオジサン的には」
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