名無しの両親は有名な刀鍛冶だった。
父親が材料を仕入れてきて、母親が刀を打つ。
普通に考えたら反対なんだろうが、母方の先祖がそもそも名刀や妖刀を生み出す家系だったらしく、父親が婿入りしたような感じだったらしい。
父親はもともと海賊だったが、名無しの母親の男気に惹かれて求婚したと言っていた。
名無しの記憶に残っている母親もやたら逞しく男気に溢れた母親ばかりだ。
こんな風に言うと死んだのかと思われがちだが、二人とも健在でピンピンしている。
ただ、異素材を求めて旅に出てしまって10年ほど所在不明なだけだ。
たまに鉱山などを漁る変人と、滅法強い刀を鍛える男前の女の噂を聞くので生きてはいるのだろう。
「まだ小さかった私は習った技術を必死で磨いて生きてきたわけですよ!もうホント一回指飛んだからね」
「繋がってよかったね」
「ホントだよ!真っ直ぐ綺麗に切れててよかった!!じゃねぇよ!それだけ過酷な人生だったって話だろ!?」
人が住まなくなって寂れてしまった自宅の工房を見た名無しは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
「過酷な人生のわりには結構楽しそうだよね」
「お陰さまであまり苦痛を感じたことはありません性格上」
「そんな感じじゃのう」
両親のことを嫌っていたら両親がやりたかった名刀集めなんてしないし、刀なんて嫌いになっていたに違いない。
ただ、集めるだけ集めて自慢してやろうと思ってはいるから多少恨みはあるかもしれない。
もともといても材料集めや工房に籠っていた二人だ。
たいした違いはなかっただろう。
「でももう刀は打たない!それだけは決めた!」
「修復は?」
「しゅ、修復は……修復もしない!今決めた!」
「たしぎちゃんが悲しむだろうね。白骸がその姿のままじゃ」
「そこでたしぎの名前を出すとはまさに外道!」
腰に差した白骸を一瞥したクザンに名無しは思わずたじろいだ。
たしぎに軽蔑の目で見られることが嫌だと言うことをわかって言っているところが本当に厭らしい。
ここまで読心術を鍛え上げているとは恐るべし海軍大将。一瞬も隙を見せられない。
馬鹿の弱味
「お前さんの場合は全部口に出とるがのう」
「それは盲点!!」
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