着いたところは明るい平和そうな普通の島だった。
華やかであり、活気があり、人気がある。何より住民の顔に明るさがある。
それなのに名無しのテンションがいまいち上がらないのは、この島にいい思い出がないからだ。
「……」
「どうかした?」
自転車を茂みに隠したクザンは、名無しの上がらないテンションに気が付いたのか不思議そうな顔をして頭をかいた。クセのある髪の毛だからなのか、ガリガリと音がする。
「何でもない!何でもないけど…もう帰りたい!」
「それってなんでもないとは言わねぇんじゃねぇの」
クザンの言葉にうぐっと言葉を詰まらせた名無しは、俯きながら右足の脹ら脛を左足の爪先で掻いた。
「ここに鍛冶職人がいるらしいんだよね。名無しちゃん鍛冶職人探してたでしょ?」
「ぐぬぬっ!そんなマイナーな情報どこから手に入れた!?」
「わしからじゃ!久しぶりだのう!」
知る人のほうが少ない情報を知るクザンに恐怖を感じていた名無しの目の前にはよく見知った顔が現れた。
「山ザル!」
「カクじゃ」
「山ザルだろ!一丁前に刀なんか使いやがって」
山ザルと呼ばれた四角い長い鼻をした青年は、持っていた刀を見せつけるように親指で抜いて見せた。
いつもはもっと爽やかな感じの格好をしていた気がするが、今日は黒い帽子を深く被り黒い服を上下着て地味な感じがする。
「お前か私の個人情報を海軍にざっくざっく流してたのは」
「こっちもそれが本職でのう。刀のことは感謝しとるが、仕事となれば別じゃ」
責めるようにカクを指を差してした名無しはその指先をクザンのほうにツツツッとずらしで睨み付けた。
「またか!また貴様の策略通りというわけか!?」
「あららら、なんの話?」
とぼけたように笑ったクザンは、斜め上に視線に向けたまま首を傾げた。
自慢気に鼻でも伸ばしていればへし折ってやるのに、変に謙虚だからなにも言えない。
「名無しちゃん、刀が打てるなんて凄いよねぇ。ご両親もさぞかしお喜びなんじゃあねぇの?」
「煩い!余計なお世話だ!それに私はもう刀は打たない!」
どこでどんな情報を仕入れてきたのかは知らないが、とりあえずクザンは知ってほしくないところまでばっちり知っているようだ。
勿論鍛冶を辞めたことも知ってるのだろうが、なにを考えているやらわからなくて不気味すぎる。
只今元気に廃業中
「名無しの鍛えた刀は使いやすいんじゃがのう」
「知るか!」
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