水掛け論



天気の良い昼下がり、新兵には幻だと思われがちの休日がとうとう名無しにもやってきた。
コビーとヘルメッポは少し前に取ったらしいが、薄情なことに教えてくれなかった。
昨日二人に自慢に行ったら今更、みたいな顔をされたから一発ずつ殴った。


「って言っても休みとか何すれば良いかわからん」


今まで自由奔放に生きてきたからか、休みと言われてもいまいちなにをしたらいいのかわからない。
給料は出ているし、買い物なんかに出掛けたら良いとたしぎやコビーにも言われたが、そもそもなにを買い物すればいいのかわからないのだ。

たいして欲しいものもないし、ご飯には困ってない。そうなると買うものはスイーツしかないが、一度だらだらし始めたら立ち上がれなくなってしまった。

ここ最近は拘束され過ぎて息が詰まりそうだと思っていたが、いざ解放されるとなんだかむず痒い。


寝ながら木材を小刀でガリガリと削ると、顔の上に木のくずがボロボロと落ちてくる。
朝からあまりにも暇だったので、廃材だった木材を貰ってきて彫り始めたのだが、これがなかなか楽しい。

かもめに似せて彫ったハトを作ってセンゴクの頭のかもめとすり替えようと思っている。
こんなくだらないことに休みを使うなんて、と周りは思うのだろうが実際休みなんてこんな下らないことで終わるもんだ。多分。


食事にこだわりはないし、お洒落にも興味はない。
ショッピングなんて金は無くなるし時間も無くなるし疲れるしでいいことなんてなにもない。
ショッピングに燃える女性ほど強い生き物はいないと思う。
特にセールの時の女性は多分三大将でも勝てない気がする。



「あららら。名無しちゃん、今日休み?」


口に入った木屑をぷっ、と吹き出して声の方を見上げると、クザンが自転車に股がったまま名無しの顔を覗き込んでいた。

「昨日言ったじゃん」


顔にかかった木屑を払いながらじろりとクザンを睨み付けると、クザンはちりんと自転車の鈴を鳴らして首をかしげた。


「言った?」

「言ったよ昨日。多分」

「絶対?」

「いやわかんないけど…言った気がする」

「言ってないでしょ」

「言ってないかも」


問い詰められるように聞かれて、自信がなくなっていく。
昨日の記憶も曖昧だなんて正直自分の頭が心配になってくる。













水掛け論


「暇ならオジサンとデートする?」

「私にも好みがあってだな」

「そりゃ残念」

「でも暇だから行く」



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