昼食時。
クザンがスモーカーと一緒に食べると言うのでこっそり一緒についてきて奢ってもらった。
本来なら上司であるクザンが奢るのが組織としての正しい在り方なのだろうが、何故かスモーカーがクザンに奢らされていた。だから勿論名無しの欲張りミックス定食代もスモーカーの財布から出ている。
「スモーカーさんお疲れ様です。今からご飯ですか?」
「ああ、お前もさっさと食え。昼から少し出る」
「はいっ」
さあ、食べようと意気込んだ瞬間にたしぎが見えない尻尾を盛大に揺らしながらスモーカーに近づいてきた。
スモーカーを敬愛して止まないたしぎを見ると、クザンは毎回羨ましそうな顔をする。
羨ましいならもっとスモーカーのように自分の見せ場を作ればいいのに、なにもしないから敬愛して貰える要素がなにもない。
「名無しちゃん。確かに、確かにその意見は間違ってはないんだけど…結構辛辣だよね」
「独り言だからあんまり気にしないで!クザンに見せ場を作れって言うのはミホちゃんの斬撃で縄跳びしろってぐらいハードル高いもんね!わかるわかる!」
「オジサンにはその例えがよくわからないけどね」
うんうん、と一人頷く名無しは海老フライを丸のみするように豪快に口に放り込み咀嚼する。海軍の食堂は安いがかなり嵩増しが酷い。今食べた海老フライだって3分の2は衣だった。
「名無しさんは鷹の目に剣技を教わってたんですよね。せ、世界一の剣豪にはどんなことを習っていたんですか?」
王下七武海とは言え、ミホークはあくまでも海賊。そんなやつを世界一とは認めたくはないのだろう。興味に染まったたしぎの顔には若干悔しさが見てとれた。
「そうだね。3分クッキングでいきなり味がついた料理が出てきた!みたいな教え方かな」
「は、はい?」
少しだけ昔を思い出してみたが、それしか例えは出てこなかった。
「まず斬撃を出します。みたいなそのあり得ない前提から話を始めるって言うか…斬られる前に察知して避けろみたいなクソみたいな教えばっかりだったよ」
「そうなんですか…」
剣豪過ぎて一般人のレベルを覚えていなかったミホークは、一般人レベルになにかを教えることは不向きだったのだ。
今まで役に立った教えは一つだけ。
剣豪には言葉は通じない
「泣いても喚いてもミホちゃんは木刀で殴ってきたからね。あいつら剣豪には言葉は通じない」
「名無しちゃん結構悲惨な過去の持ち主だね…」
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