「刀鍛冶ですか?」
「うん、どっか知らない?眼鏡ちゃんならいいところ知ってそうだから」
名無しの問いにたしぎは眼鏡を中指で押し上げると、困ったように目を伏せた。
別に質問に困っている訳ではなさそうだ。困っているのは多分場所だろう。
「あのねェ〜、雑談ならよそに行ってやりなよォ」
かつかつ、と二人の後ろで革靴を鳴らしたボルサリーノにたしぎはますます困ったような顔をする。
「まあまあ、紅茶しかないけど飲んでいきなよ!どうせ帰ったってスモーカーのパシリばっかなんでしょ?ないわー男尊女卑よねー!」
「いえ、私はそうは思いません」
たしぎに同情したつもりだったが、あっさりと否定された。
それをボルサリーノが後ろで笑っているからムカつく。
そもそもなんでこんな状態になったのかと言えば、名無しの一応の上司であるクザンがまたしても部屋を追い出すための書類を押し付けてきたので紅茶を飲みにボルサリーノのところに来た。そしたらたしぎがたまたま他の仕事でボルサリーノの部屋に来ていて、そのまま引き留め半ば無理矢理ソファに座らせて最初の流れになった。
「名無しさん刀どうかされたんですか?」
「この間折れた。いや折ったのか?取りあえず結論は折れた」
「結論が折れたみたいな言い方するねェ〜」
折れてしまった刀を引き抜くと、目の前で紅茶を飲んでいたたしぎが顔に似合わないほど豪快にお茶を吹き出した。
「しっ、白骸じゃないですかっ!?わっ、私の、し…白、骸…が」
今にも泣き出しそうな顔で名無しから刀を奪い取ったたしぎは折れてしまった剣先に触れる。
もともと白骸はたしぎのコレクションだったらしいので、愛着があって当然だ。
いきなり自分のコレクションが他人に奪われ、気が付いたら折れてたなんて発狂ものだろう。名無しなら間違いなくことの発端であるクザンを殴る。絶対に。
「大丈夫だって!工房いけば直るし泣かないでよ!あれは仕方なかったんだってば」
ううっと刀を持ったまま泣き崩れそうな声を出すたしぎに名無しがわたわたと行き場のない手を揺らす。
「あーあー、たしぎちゃん泣かせるとスモーカーが怒るよォ〜怖いねェ」
「泣かしてねぇし!ちょっとおじさんは黙ってなさい!」
スモーカーさんに言っちゃおう!
「お気に入りの刀だったのに…」
「おのれクザン、許すまじ!」
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