朝、クザンは来ない。
昼、来るのは来たが、そのまま椅子に座って寝ていた。
夕方、起きたと思ったらカバーで表紙を隠した怪しげな文庫本を読んでいた。
そして終業時間の30分前の現在、既に帰ろうとしている。
「クザンって…あれ?もしかして俗に言う窓際ってやつなの?虐められて仕事をさせて貰えないとかそんな感じ?」
丸一日クザンを見ていて思ったのだが、もう虐められて仕事をさせて貰えないようにしか見えないし、もうなんか同情したくなるぐらい仕事をしない。
仕事が面倒なのはわかるし、遊び回りたいのもわかるがクザンの場合はなんか少し違う。
別に遊ぶわけでもなく、部屋の中で寝ているか本を読んでいるかで、サボっていると言うにはあまりにも餓鬼臭い。
「30分前に帰ってもどうせ大将なんて呼び出されたら駆け付けなきゃいけないんだから一緒なんだよね」
名無しの問いかけに面倒そうに頭を掻きながら答えたクザンは、否定もなにもしない。
「クザンの生活って死ぬほどつまらなさそう」
「あららら。海軍大将が暇そうにしてるってのはいいことじゃない」
「他の二人が忙しかったら意味ないと思うけど」
欠伸をしながら答えるクザンは家に帰ったらまた直ぐ様眠りにつくんだろう。
人生の半分は寝ていそうなクザンとはどうも反りが合わない。
「名無しちゃんだってご両親の意思を継ぐなんて真面目だったりするし、人は見かけによらないよね」
さらりと流れるように呟かれた言葉に、ぎくりと心臓が跳ねてクザンの方を睨み付けた。
「ちょっ、なんっ…それ、え?なんで」
「名無しちゃん嘘つけない子?誤魔化すなら最初から誤魔化さないと意味ないよ」
露骨に慌てた名無しを見たクザンはなんてことはない顔をしているが、誰にも言ってないことをさらっと言われたら慌てたくもなる。
「……このもじゃ男、一体どこまで知ってんの?ストーカーかよ」
「あらら。これでも一応独自の情報網持ってるんだよ」
興味無さそうに笑うクザンに何となく鳥肌が立った。
「じゃあ、お疲れ。名無しちゃんも適当に帰りなよ」
ふらふらと力なく歩いていくクザンの背中を眺めながら大将の恐ろしさに軽く舌打ちした。
怠惰な大将
「上層部は腹黒狸ばっかりかよ」
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