ボルサリーノの部屋で紅茶6杯、ガープの部屋で緑茶を3杯、ダルメシアンの部屋では珈琲を5杯飲んで十分に時間を潰してきたつもりだったが、クザンは朝部屋を出たときとなんら変わりなく寝ていた。
自分のお腹は水分でたぷんたぷんしているというのに、この部屋だけ時間が経ってないように見えるのは気のせいだろうか。
「……」
人には暫く帰ってくるなみたいなオーラを出して書類を押し付けたクセに本当にムカつく男だ。
あまりにもイラッとしたので机に乗っていた冷めきったお茶の入った湯飲みを手にとって、中途半端に開いた口の中に流し込んでやった。
「げほっ!!がほ、げっ…」
的確に口の中に注ぎ込まれたお茶に噎せたクザンはアイマスクをしていることも忘れてわたわたと椅子の上で暴れている。
これだけを見ればとてもじゃないが大将には見えない。
「ちょっ、なにやってんの名無しちゃん……オジサンを殺す気?」
げほげほっと苦しそうに咳き込んで口の中のお茶を吐き出したクザンは、珍しく人間らしい表情をしていた。
こんな表情も出来るんだなと思ったが、何となく情けなくてかける言葉も見つからない。
「名無しちゃん、まず謝らない?一応上司なんだけど」
「おっといけね。すみませんねー気持ち良さそうに寝ている上司が喉が渇いたかなと思いましてぇぇぇ!」
「なにその刺々しい言い方。可愛いげないから止めた方がいいんじゃねぇの?」
「はははっ笑わせんなよ!可愛いげがあったら給料増えんの?階級上がる?有給貰えるとか?」
ティッシュで服に付着したお茶を拭いていたクザンは諦めたように名無しを見る。
こんな目をされるのは少なくないし特に不快になることはないのだが、出来ればエースのように突っ掛かってきてくれた方が絡みやすくていい。
直ぐに突っ込むことを諦め、先に続くであろう長い会話を想像して自らストッパーになるのだからこれだからおじさん集団は、としか言いようがない。
「あららら。名無しちゃんって火拳が好きなの?悪党が格好よく見えるって年頃?」
「私は私で居られるやつが好き。それが悪党だろうが善人だろうがわりとどうでもいい!全ては私のため!」
名無しが胸を張ってそう答えると、クザンはどうでも良さそうにまた頷いた。
水死、未遂
「またそのおじさんは大人だから敢えてスルーしてあげるよみたいなクソみたいな優しさ!」
「オジサンは疲れやすい生き物なんだよ」
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