ひゅるるる、と控え目な音を立てて夜の空に信号弾が上がる。
本来なら電伝虫が支給されるのだが、今回は急な討伐だったので名無しを含む数人は電伝虫が足りなかった。苦肉の策で昔ながらの敵にバレバレの信号弾が使われることになったのだ。
実際のところ本当に電伝虫が足りなかったのかはわからない。もしかしたら隠れていてマージンを払っている他の海賊に帰ることを知らせるためかもしれない。
「あ、やべ!エンジェルと遊んでないで帰らないと」
「エンジェルって言うな」
名無しは面倒そうに頭をがりがりとかきむしって空を仰ぐ。
外の自由な空気を久しぶりに吸ったら帰りたくなくなってきた。
そもそもが自由気儘に生きていたし、一つのところに居続けるのは息が詰まりそうになる。
「なぁ、お前親父に紹介してやろーか」
嫌だ嫌だと顔をしかめる名無しを見たエースは同情でもするかのように名無しの肩を軽く叩く。
親父に紹介だなんて正直気が早いし、底辺女にだって一応好みがある。
「いや、そういう紹介じゃなくて海賊になんねぇかってこと。俺だって好みはあるから心配すんな」
口元に手を当てて軽く引く名無しを見たエースはもの凄く迷惑そうに顔をしかめて右手を左右にブンブンと揺らす。
「あ、もしかして私の心の囁きが聞こえちゃった感じですか?申し訳ないでーす」
「厚かましい上に図々しいなお前」
「エンジェルって馬鹿だと思ってたけどなかなか難しい言葉を使うね。厚かましいとかお姉さんびっくりだよ」
「お前に言われたくねぇよ。てかエンジェルって言うな」
「まぁまぁそんなカッカッすんなよ!ソバカス増えるよ」
エースの背中をバシバシと叩き返した名無しは手首の痛さに顔をしかめて自らに舌打ちした。
「とりあえずエンジェルは向こうから出ろよ!あっちに小さな船着き場があったから」
「よく知ってんなー」
「まぁな!これから私に足向けて寝んなよ!」
「って言っても俺もあっちから来たんだけどな」
名無しが指差した方向を同じように指差したエースに再び殺意が沸いた。
これだから海賊は
「エンジェルからフェアリーに格上げしてやろうか」
「なんでだよ」
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