エースの目は悪とは正反対で、寧ろ自分の方が悪に見えてくる。
半分冗談にしても敵意を向けられているのに完全にノーガード状態で、やや威嚇しているこっちがチンピラのようだ。
「おいおい止めとけ。俺は女には手を上げない趣味なんだ。弱い者いじめはすんなって親父に言われてるからな!」
親父の名前に自慢気に鼻をふふん、と鳴らしたエースだったが、弱い者に区別された名無しの気分は最悪だ。
捕まえられないにしても一発は殴りたい。
そう思って刀に手を伸ばしたが、お気に入りだった刀は昼間の戦闘で折れてしまったし、とりあえず持ってきた刀は目釘が弱体化しておりいつ外れても不思議ではない。そして身体の調子も最悪。
となると、自分よりランクの上のヤツに手を出すのは賢くはないだろう。
「確かに。私じゃエースには勝てない!それにさっき助けてもらった恩もあるし…今回は会わなかったことにしといてやろう!」
「なんだその上からな態度」
自分よりも大きなエースを見上げながら鼻を短く鳴らした名無しは右手をスッと差し出した。
エースは些か納得いかない顔をしていたが、持ち前のフレンドリーさがそれを上回ったらしくきちんと右手を出してきた。
「でもまぁお前そんなに悪いやつじゃなさそうだしな!」
大きな手を掴んで小刻みに揺らした名無しは、珍しく不気味な笑顔を浮かべる。
そしてしっかりと右手を掴んだまま左手でエースの左脇腹を思いっきり殴った。
「うぐっ!この野郎!」
「はっはっはっ!油断したな高額賞金首め!今私が超本気モードでダイナマイト持ってたら即死だから!即死だから!大切なことなので2回言いましたー!」
思いっきり殴ったと言っても、今の名無しは負傷しているし、エースからしてみればちょっと強く突っつかれた程度だろう。
殴った感じもそんな入った感じはなかった。
「ダイナマイト持ってたらお前が巻き添えで死ぬんじゃね?俺は死なねぇけど」
「最低だなエース。巻き添えで人を殺すのか!この極悪非道男!まるで海賊!」
「そうだな。俺は海賊だし」
嫌がらせのつもりで言ってみたが、当の本人はけろりとしていてどうでも良さそうに名無しに殴られた脇腹をボリボリと掻いていた。
まるで海賊
「やっぱりお前は今日から天使だ!エンジェルエース!」
「おい!それはやめろ!」
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