世の中上には上がいる



理由はよくわからないが、とにかく名無しは走っていた。
エースと意気投合したのはよかったのだが、何故かエースは追われている身らしく、襲われたエース共々走って逃げることになってしまったと言うわけだ。

飲みかけの酒を持ったまま逃げていた二人は、合間合間で酒を飲みながら顔を見合わせて笑うしかない。


「そもそもなんでアンタ追いかけられてんの?人の女でも寝取ったとか?遊びで人の女を取ったとか?」

「どっちも一緒じゃねぇか!そもそもなんでそんな下ネタ限定なんだよ!俺はサッチじゃねぇぞ」

「だってもう顔が!女関係ですって言ってるもん!」

「そんなこと今まで一度もねぇよ」

「なんだ童貞か」

「てめぇ殴るぞ!」


呆れたような顔で名無しが肩を竦めると、エースの額に血管が浮き出た。
後ろからはよくわからない罵倒するような声が聞こえるし、時折威嚇するような銃声も聴こえる。

どうやらこの島にいるやつにはまともな奴はいないらしい。
本来なら疲れきってて足も動かないし、手首も痛いから戦いたくはないが、これ以上追いかけられながら飲むのはごめんだ。


「あ、おい!」

「逃げてたってきりがないじゃん。先に行ってろ!私は後から行く!」


酒をエースに投げて渡した名無しは、砂ぼこりをたてながら急停止してくるりと後ろを振り返った。
そして腰に引っかけてあった急拵えの刀を抜く。折れてしまった刀の代わりだったが手入れが不十分で油が浮き出ていた。


「なんかいかにも死にそうなモブのセリフだな」

「いいからさっさと逃げろよ!お前からたたっ斬るぞ!」


後ろでエースが小馬鹿にするようにプッと笑って殺意がわく。折角人が正義の心に目覚めたのに、根本から叩き折ろうとしてくるなんてとんでもないヤツだ。

近付いてくるゴロツキを見据えながら柄を強く握ると、ズキリと手首が痛んだ。
その瞬間、背後から炎の塊が名無しを追い越してゴロツキを飲み込みながら押し返していく。

慌てて火の出所を確認するように振り向くと、エースの右腕からチリッと炎が見えた。


「お前馬鹿なのかいいやつなのかよくわかんねぇやつだな」


焼けた道のあちらこちらでパチパチと火の粉が弾ける音がして、背筋に冷や汗が流れていくのがわかった。







世の中上には上がいる


「…守ろうとして損した!!」

「だって雑魚相手にすんの面倒くせぇだろ」



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