「てめぇマジふざけんなよ!自分が汚れてたからって巻き添えにするなんてどういうことだこの野郎!」
ソバカスの男、エースのシャツの襟首を掴んだ名無しは感情の赴くままその身体を揺さぶる。
その度に名無しの髪の毛からはぽたぽたとスープが滴り落ちた。
「だから!お前が危なかったから避けるために仕方なかったって言ってんだろ!」
「何が危なかったのよ!言ってみなさいよ!お前はなんだ?スパイか!?世界は俺の敵だとか思い込んでる痛い子なの!?」
「うぜぇ!お前なんか助けるんじゃなかった!」
至極嫌そうな顔をしながら名無しの手を払おうとしたエースは、一瞬また顔をしかめて人差し指と親指で銃を模した形を作って名無しの方に向けた。
子供がやりそうな遊びだが、これで手をあげろと言い出したら危ないので逃げよう、そう名無しが固まった瞬間、エースがぼそりと火銃、と呟く。
名無しの方に向けられた指先からは火のようなものが猛スピードで発射され、名無しの耳のすぐ横を風を切りながら飛んでいった。
身体を竦ませるようなその音に、思わず掴んでいた襟首を離して自分の耳があるか触って確かめる。髪の毛が数本チリチリになっていたが、耳は無事なようだ。
それと同時に後ろから呻き声が聞こえて人が倒れるような音を聞いた。
「……」
「だから言っただろ」
エースの言葉に後ろを振り向くと、そこにはダガーを持ったまま倒れている男がいた。
その男の腹部には焼けたような跡があり、先程名無しの隣をすり抜けた火の行方が窺える。
「先に言ってよ」
「だから先に言ってたらお前の頭はないっての」
「そもそもその紛らわしい顔がいけない」
「そもそもはお前のその失礼過ぎる態度が問題だろ。女でも躊躇なく殴れるレベルだぞ」
「女として意識しないで!私にだって選ぶ権利はあるんだから!」
「よし、とりあえず殴る。親父が許しても俺はお前を許さねェ」
先程とは真逆で名無しの襟首を掴んだエースに、名無しは両手でエースの肩を力強く掴んだ。
「エース!久しぶりに私とまともに会話をしてくれる人にあった!お前いいヤツだな!!」
「はあ?まぁ、そ、そうだな」
キラキラと目を輝かせてエースに顔を近づける名無しに、エースは若干引き気味で軽く頷いた。
一度会ったら友達で
「何故か私の周りの奴は会話の途中でフェードアウトし出すんだ」
「だろうな」
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