※流血注意
「……」
正直今まで生きてきて、土壇場でなんとかなった試しはない。
寧ろ何ともならずに悪い方向にばかり転がっていくことの方が多かった。
「挑発だけして散々逃げ回りやがって」
細い路地から体格のいい身体が覗いて、名無しはびくりと身体を震わせた。
目の前には鍵のかかったドア。
後ろには鉈を持った厳つい海賊。
左右は高い壁に囲まれていて、正に逃げ場ない八方塞がりだ。
唯一の救いは海賊に仲間はおらず向こうもこちらも一対一と言うところだ。
腕一本諦めるぐらいの覚悟が有れば逃げることも出来ないこともない。
「私が考えなしにただ逃げてると思ってたわけ?全てアンタ一人をおびき寄せる為の巧妙な罠よ!!」
相手を少しでも怯ませてやろうと思って吐いた嘘だったが、男は怯むどころか威勢よく吠えた名無しをバカにするように首を傾げた。
大きい身体のせいか若干見下されている感があり、怯ませるどころかこちらが逆に怯みそうになる。
「海軍様が嘘ついちゃいけねぇだろ?その舌引っこ抜いてやろうか」
短く引き笑いをした男は、ぎろりと名無しの方を見て狭い路地を塞ぐように鉈で壁を撫でた。
カラカラと乾いた音が響き、古くなった建物の欠片のようなものがパラパラと落ちていく。
「海軍だって嘘ぐらいつくわ!嘘が海賊のものだって誰が決めた!」
鞘に納めていた刀を再び引き抜いた名無しは、壁との距離を図るように水平に刀をスライドさせた。
思いきり振ったりすれば壁に引っかかり生きていられる保証はない。
「そんな細身の刀へし折ってやるよ!!」
名無しの刀を見た男は鼻で笑って鉈を振りかざした。
力一杯振りかざされた鉈の前にへし折ってくださいと言わんばかりに刀の腹でガードした。
降り下ろされた分厚い鉈が、名無しの持っていた刀に当たり、奥歯が軋むような金属音がその場に響き渡る。
「そんな刀で防げると…」
「うっさいっ!作戦通りだバカ!!」
馬鹿にするように折れた刀を見て笑う男の肩に折れて短くなった刀を突き刺す。
長さが半分以下になった刀は詰められた距離にも関わらず易々と男の肩に突き刺さり、更に振り切るように無理矢理横に切り裂いた。
折れた刀の先から血が飛んで、路地の壁にべちゃりと張り付く。
「ああ"っ!このクソ女がっ!」
目を見開いて肩を押さえる男は、痛みに耐えるように歯を食いしばり、名無しの方を睨み付けた。
肩を上下に大きく揺らしていた名無しの手から、力なく刀が落ちる。
ずきずきと痛む手首は先程無理に受けた鉈のせいで刀を持てる状態になかった。
「もうだめ…手首死んだ…」
手首死亡のお知らせ
「俺なんて肩だぞ!手首がなんだ!ふざけんな!」
「馬鹿か!刀が握れないと話になんねぇだろ!!肩がなんだ!」
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