その島は酷く寂れていた。
活気がなく、疲弊しているようにも見える。
「まあ、ありがちっちゃあありがちな感じだよね」
どうせデブ領主に搾取されているか、海軍に搾取されているか、海賊に搾取されているかだろう。
大海賊時代が始まってからは、あちらこちらの島でこういった疲弊状態をよく見るようになったらしい。記録によると昔はまだ均衡がとれていたらしいが、最近は均衡がとれているところの方が珍しい。
「でもでもこんな残念な島に下ろされた私が可哀想でならない」
「随分えげつないこと言っちゃうじゃあねぇの。正義の心とかねぇのかな名無しちゃんには」
「正義の心が買えるほど給料もらってないんだもん!薄給過ぎて海賊に心を売り渡す勢いだよ!」
「じゃあ今回頑張んなさいよ、沢山捕まえれば昇給のチャンスがあるとかないとか」
適当に肩を竦めながら呟いたクザンはかなり投げやりだ。
どのくらい投げやりかと言うと、簡単に言えば全くの他人の結婚報告を聞いたときのような反応ぐらい投げやりだ。
これは間違いなく嘘だろう。
あまりクザンとは関わりはないから性格はわからないが、死んだような目をしているから嘘だ。
「そもそも沢山捕まえて、昇格!じゃないのがもうケチ臭くてアウト。昇格のチャンスがあるかないかってなんだよ!宝くじを買えるチャンスみたいなノリで人を騙そうとすんな!」
「あららら。名無しちゃん意外に鋭いじゃあねぇの」
死んだような目をしていたクザンが意外そうに眉を上げて、名無しの方を小馬鹿にするように見下した。
本人に見下す気はないのだろうが、異様に高い身長のせいで上から見下されている感じがすごい。
名無しだって低い方ではないし、割りと筋肉質なので小さく見られたことはないが、クザンや他の大将、中将に脇を固められると捕まった宇宙人並みに惨めに見える。
「高身長のやつは膝歩きすればいいのに」
ぺっ、と吐き出すような真似をして肩を怒らせた名無しは、渡された手配書の束をポケットに無理矢理押し込んだ。
狭いポケットに突っ込まれた手配書はぐしゃりと嫌な音を立てたが、もう見ることはないから構わない。
「じゃあ名無しちゃん、手配書にある海賊一人捕まえたら俺のポケットマネーから500ベリーあげるよ」
「マジか!流石大将!一生貴方についていきます!!」
捨てかけていた手配書をかき集めて引き延ばした名無しは、相変わらず死んだような目をしているクザンに尊敬の眼差しを浮かべた。
大将のポケットマネー
「20人捕まえたら1万ベリーか!すげー!」
「そうだろ。頑張ってな」
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