ざざん、と心地いい音がしてゆっくりと目を開ける。
空が青く、マストが高く伸びていて帆が気持ち良さそうに波打っている。
目が覚めたら海の上だった。
「やべ、とうとう私の夢遊病もここまで来たか」
何かを悟ったように静かに口を開いたが、それにたいして誰もなにも返すことはなかった。
色々と感じる違和感に首を傾げながらゆっくり身体を起こすと、そこには見知った感じの外套を羽織ったクザンとダルメシアンがいた。
周りは仕事をしているのか、バタバタと床越しに足音が響いてくる。
名無しには昔から寝ているのに徘徊しまくるという厄介な癖がある。今回もまた寝ている間にサカズキの腕の中から逃れ、心地よい船に乗り込んでしまったのかと思った。思ったが大将から逃げられたなんてあまりにも話が出来すぎなので考えるのを諦めた。
「名無しちゃん起きた?今の状況説明してあげようか。どうせ暇だし」
考えることを諦めて大きく伸びをして起き上がると、ベストなタイミングでクザンが振り返って、それにつられるようにダルメシアンも名無しの方を見た。
気のせいかダルメシアンの顔色はかなり悪いように見える。
「…あー、いや、いいや!どうせ聞いても覚えてられないし」
ぼりぼりと頭を掻いた名無しは、隣に置かれた刀を見てクザンの方を見た。
もともと新兵は武器を所持していない者が多く、基本みんな部屋に置くか武器庫に保管していることが多い。雑用する日は特にだ。
勿論新兵以上になってくれば武器の所持は当たり前になってくるが、新兵は雑用以外することが殆どないので訓練時以外は持たない。
そんな名無しの刀がわざわざ隣に置いてあると言うことはつまり。
「名無しちゃん感がいいね」
「寝起きの心の声を聞くな!正直風呂上がりの全裸よりも恥ずかしい!」
「その割には隠さないね」
「心の裸族目指してるからね」
刀がわざわざ隣に置いてあると言うことはつまり、あれだ。もう面倒くさいから考えるのはやめよう。
心の裸族
「俺が言うのもなんだが、名無しちゃん諦め早すぎじゃあねぇの」
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