船内の掃除はほぼ終わり、整備士はとっくの昔に船を降りて休憩に行っている。
船の上にいるのは名無しと同期の新兵だけだ。
名無しが提案した人間カーリングは、ストレスが溜まっていた新兵にとっては面白い遊びだったらしく、思った以上にみんなノリノリで遊んでいた。
遊びなんて殆ど認められていない海軍では新兵はとにかくストレスも溜まる一方で、こんな馬鹿みたいな遊びでも楽しくて仕方がない。
「こんなことしてて大丈夫なんでしょうか」
「男が細かいこと気にすんなって!」
心配そうに眉を下げるコビーの背中をバシバシと叩いた名無しは有無を言わさずにコビーに救命浮き輪を渡す。
無意識に渡された浮き輪を掴んだコビーに名無しはにっこりと不気味な笑顔を浮かべた。
「コビーさんいきまーすっ!!」
「えっ!?」
がしっと力強く肩を掴んだ名無しは戸惑うコビーを無視して並走して勢いを付けてそのまま突き飛ばした。
「うわああああっ!」
暫くデッキを走っていたコビーだったが、濡れて床で足を滑らせ綺麗に前のめりに転んだ。
勢いに乗っていたコビーはそのままデッキの上をくるくる回りながら滑っていく。
バランスをうまくとれないせいか曲がっていき、震えるような叫び声に新兵達の笑い声が上がる。
誰よりも笑っていたのは名無しだったのだが、疲れが限界で水浸しのデッキの上に倒れ込んで動けなくなっていた。
「貴様等ァ!なにしとるんじゃァ!!」
くるくる回っていたコビーが漸く止まろうとした時、本部の建物の方から雷のような声が聞こえて、新兵全員が凍りついたように固まった。
「大将だ…やべぇ!」
「か、隠れろ!顔伏せろ!」
一人が言った言葉に周りが反応して慌てて逃げ出す。
バタバタと大急ぎで逃げ出す他の新兵を名無しは横たわったままぼんやりと見続けた。
「名無しさんも逃げないと……っ」
一足先に逃げ出していたヘルメッポにつられていたコビーが、倒れ込んでいる名無しを見て顔を引きつらせた。
「私はいいや。ダルくて逃げる気力すらないから。浮き輪枕にするからこっちに投げといてー」
倒れたまま追い払うように手を動かした名無しは、力なく目を閉じてそのまま動かなくなった。
充電してください。
「この状況で寝た!?」
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