無愛想なミホークから聞いた言葉はあまり聞き慣れないような言葉だった。
いつもは知らないとはっきり言うのだが、目の前にいるのがミホークなだけあって覚えてないなんて言えない。絶対に言えない。
「おーかしちぶかいね、はいはいはい」
曖昧に頷きながら目を左右に泳がせると、ミホークの顔があからさまに不愉快そうに歪んだ。
名無しだって覚えていられるなら覚えていたいが、生憎そんなに記憶力もよくないし、サークルみたいな集まりにも興味もない。
「貴様の頭の容量では覚えているはずもないな、どうせ今朝の朝飯すらもまともに覚えてないだろう」
小馬鹿にするように上から見下しながらそう口にしたミホークは、名無しの顔を一瞥してから短くため息を吐いた。
このどこまでも人を見下す態度が人に殺意を抱かせているといつになったら気がつくのか名無しにはわからない。と言うかここまで人を見下せるのはどこかの女帝だけだと思っていた。
「とりあえずミホちゃんがなんらかの理由でここにいるということはよくわかったから早く島に帰りなさい」
放っておいたら見下し過ぎて後ろにひっくり返りそうなミホークは、じろりと名無しを睨み付けた。
身長の差もあってか、睨まれると上からアクリル板で押さえつけられているような感覚に陥るから本当にやめて欲しい。
「名無し、貴様も島に戻れ」
「え……っ!ミホちゃんが私の心配するなんてどういう」
「貴様がいないと城が汚れる一方だ」
「まさかのお掃除おばさん要員か!!」
「他に何がある」
ミホークが言う城があるクライガナ島を脱走したのはもう半年程前になる。
密航していたらたまたま行き着いたクライガナ島だったが、入るのは楽で、出るのは死ぬほど困難な島だった。
ヒューマンドリルに毎日のように追いかけ回され、たまにミホークに殺されかけ、島から脱出するのにかれこれ10年はかかった。
今思い出しても涙なしでは語れないぐらい過酷な毎日だった。
そんな島に誰がまた帰りたいものか。帰りたいと願うヤツは間違いなく自分の身体を苛めたい変態だけだろう。
「丁重にお断り申し上げます」
言いたいことは沢山あったが、どうせ50分1も聞いてくれないので短くしておいた。
「貴様のことだ、刀の情報をちらつかされてほいほいついてきたのだろうが、ここはそんな甘い考えでは生きてはいけない」
これまでの経緯を全て見透かしたミホークに、名無しは眉間にシワを寄せた。
お腹が減った
「ここで会ったのも何かの縁だし、なんか奢って」
「人の話を聞いていたのか?」
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