正式な海兵になったとはいえ、新人は訓練漬けの毎日だ。
部隊が違うとは言え、本部内にいることが多いのでちょこちょこ顔を合わせる機会も多い。
少しずつ筋肉が付いてきて、ひ弱そうな身体をしていたヤツが気がついたら細マッチョになっていた、なんてことも普通にある。これにはコビーが一番当てはまるだろう。
顔に付いていた肉が落ちてきて、スマートな顔つきになってきている。とか言ってみるが、実は元の顔をそんなに覚えていないので半分以上が予想に過ぎない。
そんな調子の名無しはと言うと、相変わらず実戦がないことに楽さを覚え、戦艦を繋ぐロープについたタールを取り除いていた。
別に命令なわけではないが、何となくタールがべたべたと付いたロープが気になって気になって仕方がなかったので自主的に行っている。どうせまたすぐに付いてしまうのだからあまり意味はない。
「……あれ?」
ふ、と掃除の手を止めた名無しは視界の端にコビーとヘルメッポを含むガープ隊を見つけた。
端に並んだ海兵3人の頭には大きなたんこぶがあり、何かしくじったのが容易に見てとれる。
集団生活が基準になる海軍は連帯責任が多く、誰か一人でもヘマをしでかせば小隊全体で責任を取らされることも少なくない。
コビーとヘルメッポも今正にそんな感じなんだろう。
ガープが何かを怒鳴っている声が聞こえる。
「……」
暫くそれを見ていた名無しは手のひらに付いたタールを軍服に擦り付けてから軽く手を叩いた。そしてどこからともなく大きな紙とペンを取り出す。
大きな紙に相応しく大きく字を書き始めた名無しは、より濃く見やすいようにきちんと縁取りもした。
その紙に書いた文字はわかりやすい3文字。その上にちょっぴり補足を書いておいた。
それを持ったまま嬉々としてガープの背後から隊に近付いた名無しは、コビーとヘルメッポの顔が見える位置に立った。
2人は怒られながらも名無しの存在に気がついたようで一瞬だけ目が合う。
ヘルメッポはあからさまに嫌そうな顔をしていてムカついたが、今から起こるであろう事態に免じて今は許してやろうと思う。
名無しは先ほど書いた紙をピンと広げて頭の上に掲げた。
"ここでボケて!!"
名無しの頭上に掲げられたその文字にその場にいた半数以上が盛大に吹き出して、ガープの血管が派手に切れる音が聞こえた。
ここでボケて!
「ゴラァァァ名無し!!貴様もここに並べぇい!!」
「怒りたきゃ私の飼い主に言うんだな!HAHAHA!」
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