配置も決まり、緊張から解き放たれた新兵、することなんて一つしかない。同期だけでの飲み会だ。
暫くは忙しくこうやって集まることも出来ないと言うことでコビーが提案していた。
コビーは気は弱いが、周りを纏めたり努力で認められることは得意なようで、同期の中ではコビーの意見に反発するやつはまずいない。口だけケツ顎もコビーの意見だけはすんなり受け入れることが多い。
「誰が口だけケツ顎だ。てめぇのすっからかんの頭カチ割ってやろうか」
「ヘルメッポってなんでそんな口悪いの?なんかこの世の中に不満でも抱えてる可哀想な子なの?人の悪口言わないと生きていけないの?そんな子は育てた覚えはないから死んでしまえよ」
中身の入っているであろう酒瓶を叩きつけるようにテーブルに置いたヘルメッポを名無しは忌々しげに睨み付ける。
ザワザワと騒がしいせいか名無しとヘルメッポのいがみ合いに気がつかない。いつも然り気無く仲裁に入るコビーは幹事なので止めにはこない。
ぴきぴきと目元をひきつらせた名無しだったが、このお祝いムードをぶち壊すのはさすがに気が引ける。ゆっくりと深呼吸を繰り返してひきつる目元を指で軽く揉んでからヘルメッポのグラスに酒瓶を傾けた。
「まぁまぁまぁまぁ!落ち着けよ私!特にケツ顎!」
「はぁ?」
グラスに酒を注ぎながら不気味に笑う名無しに、ヘルメッポは訝しげに眉を歪めた。
「何故私たちがこうも言い争いをしてしまうのか!それはつまりあれだ!口が悪すぎる!」
「お前のな」
「お前もだろ!お前もだろ!大切なことだから2回言いました!」
テーブルをばしばしと叩くと、並々と注がれたグラスから酒が少しだけ溢れた。
うぜぇ、と目を細めたヘルメッポに名無しは仕切り直すように軽く咳払いをした。
「お互い様ってことでこれからはもっとオブラートに包みながら会話をしようじゃないか!」
なっ、と語りかけるようにヘルメッポの肩を叩きながら穏やかな口調で言うと、ヘルメッポは更に訝しげな顔をした。
「つまりだから、ほら…そろそろ月に帰る時間だよとかさ!」
「お前お星さまになって空から見守ってたら?」
「そうそうっ!のってきたねお客さん!」
へいへいっと手を叩いて身体を不自然に揺らす名無しに微妙そうな顔をしたヘルメッポだったが、酒が入っているせいかすぐにどうでもよさそうな顔になった。
顔色はたいして変化がないが、結構強い酒を飲んでいる。
生きていく上ではたいした利益にはならないがヘルメッポは笊らしい。
「うっせぇばーか」
「オブラートオブラート」
「千の風になればいいのに」
「それはちょっと言い過ぎだと思うの」
「基準がわかんねぇよ」
オブラートに包んでみた
「ヘルメッポの顔って軍艦に似てるよね」
「オブラートの意味しらないだろ絶対」
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