「本当にこの小娘が…海賊狩りなのか?」
訝しげな顔をしていた初老っぽい男は、眉間に寄ったシワを揉みほぐすようにしながら頭を抱えた。よくわからないが、名無しが海賊狩りだったことを認めたくないらしい。
こっちからしてみればこんな奇抜なジジイが海軍のお偉いさんだと言うことの方が認めたくない。
いや、断固として認めない。
「名無しちゃん、それってわざとなの?」
わざとらしい咳払いをしたあとに気まずそうに名無しの方を一瞥した青い感じのもじゃ男はちらちらと初老の男の方を見る。
「なにが?私からしたらその頭に付いてるカモメはわざとなの?って感じなんだけど」
イタズラされてとか、すり替えられてならまだわかるが、あの格好で人前で堂々と喋れる神経と言うのはある意味凄い。
無我の境地というやつだろうか。それともこの殺伐とした世界を少しでも和ませるために敢えて身体を張っているのだろうか。
「名無しちゃん、さっきから…口から出てるんだけど」
気まずそうに口を押さえながらぼそぼそ喋るもじゃ男は、笑いを堪えているのか若干肩が揺れていた。
「ああ、もしかして心の声?気にしなくていいよ、だって心の声だから」
昔からだが、考えていることが口からだだ漏れになってしまう場合が多々あった。
「面白い子でしょ?センゴクさん」
「どこがだ、青雉。正気か?」
「可愛い子でしょ?カモメさん」
「どこがだ、小娘。鏡を見て出直せ」
苛々したように重厚な机を指先で叩いたセンゴクは、これ以上ないぐらい重たいため息を吐きだして、追い払うように手をひらひらと動かした。
海軍の人間というのはなんでこう偉そうなのか理解できない。
「今に見てろ、初老が」
「名無しちゃん」
「あっ!間違えて口に出しちゃった!」
心で悪態をついたつもりだったが、無意識で口から出てしまっていた。
結構な確率であることなので気にしない。
「この小娘は赤犬の下につけろっ!一度徹底的に躾直せ!」
顔を真っ赤にしながら机を叩いたセンゴクに、もじゃ男は面倒そうに頭を掻いた。
犬に躾を頼むなんて、海軍って本当はじり貧なんじゃないかと思った。
犬に躾を頼みなさい
「あ、俺の名前…もじゃ男じゃなくてクザンだからね」
「え?別に聞いてない」
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