無人島演習が無事に済み、晴れて海軍の海兵として認められるとあり、新兵のテンションも上がっている。らしい。
あいかわらず名無しにはよく理解が出来ない。
海兵として海に出ると言うことは、海賊と対峙しても逃げられないと言うことだし、軍艦だっていつ襲われるかも分からない。平和の為にいつ死んでもいいですよ、と身を投げ出すアホみたいな行動の意味が分からない。
勿論崇高な考えを持っているやつもいるのだろうが、みんながみんなそんなに崇高な考えを持っているとは思えないわけだ。
海軍に入隊したからといって正義万歳!海軍万歳!となるはずもなく、同期と呼ばれる仲間との温度差が明確になってきていた。
「……」
「…人の背後にひっそりと立つの止めてくんないかな。なんか冷気が漂ってくるんだよね」
「なんかこう悩んでる女の子の背後にひっそり立つのって格好いいと思わない?」
「そういうのってさ、ただしイケメンに限るって条件つくのが世間の常識だよね」
真っ直ぐ海を見つめたまま、後ろに佇んでいるであろうクザンにチクチクと刺すように文句を漏らす。
別にクザンがなにかしたとか、世の中のおじさんが憎いとかそういうことは一切ないが、今はなんか無性に苛々するから放っておいてほしい。
「…若い子の常識は進んでるんだね、おじさんにはついていけねぇよ…」
「世界は歩みを止めないからね」
「なんか今凄く格好いいこと言ったね」
「実は私もちょっとビビった」
「うん」
暫く沈黙が続いたが、クザンは頷く以外のなんのアクションも起こさず、名無しも格好いいことを言った手前下手なことが言えない状況が約小一時間続いた。
おかげでなにを悩んでいたのかすっかり忘れた。
乙女は悩む
「なに悩んでたんだっけ…」
「忘れちゃうぐらいの悩みだったってことじゃあねぇの?」
「いやいや!一概には言えんだろう!!」
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