「なんだろうこの脱力感。今までの努力とか苦労がバカみたいに思えるんだけどケツ顎はどう思う?」
「今登ってきたヤツを目の前にして嫌なこと言うな。本気で殴るぞ」
今しがた頂上についたコビーとヘルメッポが、脱力感にまみれた名無しを見て眉を歪めた。
やっとのこと登ってきた二人からしたら達成感で一杯なのに、目の前で既に脱力しているやつがいると気分はよくないだろう。
だがそんなことは名無しには関係ない。
「酸欠になりながらも一生懸命登ってきたら、達成感を感じる前にクザンがチャリで登ってきてて気分を根本からへし折られた」
「海軍の七不思議は本当なんですね」
「人が必死に登ってきた道のりをチャリですいすい登ってきたのかと思うと殺意湧く」
「チャリで登って来る方がキツそうだけどな」
地面に寝転んでうだうだと文句を言う名無しを見たコビーとヘルメッポは、感心したように後ろを振り返り顔を見合わせた。
勾配の激しい頂上付近を自転車で登ってくるなんて、ある意味罰ゲームに近い。それをあっさり登ってきてあっさり去っていった。
それを見たら必死で登ってきた自分が馬鹿みたいに思えたわけだ。
「あの人はあんな感じだから気にしてたら身が持たねぇぞ。大将やってるヤツなんか普通のやつなんかいねぇんだからな」
脱力しきって愚痴をこぼしながらごろごろと地面の上を転がる名無しの頭をスモーカーが軽く蹴る。
同じ距離を登ってきた筈なのに、スモーカーも息切れしていない上に葉巻までたしなんでいるから救われない。
「なんだ海軍って化物集団のことだったのか。これだからケツ顎は」
「なんで俺に八つ当たりした」
「一番ショボい化物っぽいからに決まってるだろ」
「お前の顔の方がよっぽどショボいくせに」
余裕顔でぷかぷかと紫煙を吐き出しながら新兵の人数を確認するスモーカーを見ながら吐き捨てた名無しは、ヘルメッポの方を見て忌々しげに舌打ちをした。
「海には化物じみた海賊もいっぱいいますからね、味方だと思えば頼もしいぐらいですよ!」
鼻息荒く語るコビーに、名無しは適当に頷いた。
僕もいつかは、と意気込むコビーは理解できないというか、理解したくないというか。
根本的に人間としての作りが違うんだなと言うのは理解できた。
「コビー、大将になったらさ」
思いついたように口を開いた名無しにコビーが眉をあげたまま軽く頷いて名無しの言葉を待った。
海軍の大将
「大将になったらご飯奢って」
「……」
「コビーもバカだけどお前って本当に最低だよな」
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