いくら本部の海兵になったとは言え、遠征なんかも頻繁にある。
だからなのかは知らないが、新兵は無人島での演習が義務付けられているらしい。
新兵を率いるのはスモーカー。
本来なら毎日暇しているガープが引率する予定だったのだが、急遽用事が出来たとかなんとかで出発30分前にスモーカーに変更になった。
まぁ名無しとしては引率が誰だろうがあまり関係ない話だが、コビーがスモーカーとは絡みにくいと散々愚痴っていたので他の人からしてみればなかなか重要なことなんだろう。
「くそーっ、一匹たりとも獲れねぇ…」
もぬけの殻になっている罠をみたヘルメッポは八つ当たりするように大きな木の根っこを蹴りつけて舌打ちをした。
野外演習ということで勿論食料も自分で調達しなくてはならないらしい。レトルト食料ぐらいあるだろうとは思うが、スモーカーの時がそうだったから再現しているらしい。
新兵の殆どがうんざりしているだろう。
「うさぎ一匹捕まえられないの?どんだけ平和な世界で生きてきたんだこのケツ顎」
成果なしのヘルメッポを見た名無しは小馬鹿にするように見下して、黒く焦げたトカゲを噛む。
焦げているので苦くて美味しくはないが、なにも食べれないよりはマシだろう。なんせ明日には地獄の登山が待ち受けている。
海軍なのに登山なんて本当に馬鹿げてはいるが、登山で給与が貰えるならラッキーだとは思う。
「トカゲ食ってるやつよりはマシだろ。人を馬鹿にすんならでかい獲物でも狩ってからにしろ」
口に当たる骨を逞しく噛み砕く名無しを見て、ヘルメッポは再び舌打ちをした。
「でかいヤツ仕留めたけど捌くのが面倒だったから置いてきたんだっての」
「はいはい妄想妄想」
「いや、これマジだから!嘘じゃないから!どっから出でくんの?その人を嘘つき呼ばわりする根拠は!」
「日頃の行いじゃねぇの?お前が言うと全部嘘臭い。ホントは男だろ」
「そこは疑ったらいけないとこだろ!お前のケツ顎にシリコンが入ってんのか疑うぐらい失礼だぞ!」
完全に名無しを疑っているヘルメッポだが、よくわからないでかい動物を狩ったのは本当だ。偶然の産物ではあるが。
名無しは基本的にサバイバルをして生きてきたし、剣術を教えてくれた師匠だって食べ物を恵んでくれるような心優しい人間じゃなかった。
だから多少は他の新兵より狩りには慣れていて当たり前だったりする。
「じゃあそのでかい獲物はどこにいんだよ。嘘だったら土下座しろよ!」
「向こうの方に置いてきた!てめぇこそ本当だったら土下座して切腹しろよ!?」
がりがりとトカゲの尻尾を噛み砕いた名無しは、固い焦げを地面に勢い良く吐き出して、森の奥を指差した。
無人島演習一日目
「コビーも行こうぜ」
「え?僕はウサギが獲れたので…」
「眼鏡、付き合い悪いぞ。今日が月夜だといいな」
「……」
prev next
29